研究実績の概要 |
近年,若年者の間でポータブル・オーディオ機器等の一層の普及が進み,騒音性難聴(いわゆる,イヤホン難聴)の増加が懸念されている。騒音性難聴の早期発見には,通常の8,000 Hzまでの純音聴力検査に加え,さらに高い周波数(9,000-16,000 Hz)で測定する「拡張高周波聴力検査(extended high-frequency audiometry)」が適用されてきた。しかし,騒音性難聴に対するその検査の有効性評価は,研究によって必ずしも一致していない。 そこで,令和元年度(第2年度)は,拡張高周波聴力検査による騒音性難聴の診断に関する国内外の論文をサーベイし,収集した最近の約100編の論文についてレビューを行った。その結果,次の点が明らかとなった:(1) 拡張高周波域の聴力は騒音性難聴の早期発見のための良い指標となり得るとする研究報告が,依然として多数を占める。(2) 拡張高周波聴力検査の有効性に懐疑的な研究報告では,騒音の性状(衝撃性か連続性か)や評価指標(一過性閾値移動か永久的閾値移動か)によって結果が異なる。(3) 本研究が指摘する,拡張高周波聴力検査用オージオメータに起因する測定上の欠陥(被検者の誤反応を誘発するノイズの発生)が影響したとみられる測定結果を示した研究報告がいくつも存在する。また,それらの研究報告は,その問題の存在を認識せずに誤った結果を報告しているとみられる。 以上のレビューにより,拡張高周波聴力検査が騒音性難聴の早期発見に有効であると見込まれること,及びその効果の検証に当たって,現行の測定法に起因する問題の解決が必要であることが改めて確認された。
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