研究課題
本研究では、代表者らが同定した新規難聴原因遺伝子候補SLC12A2の分子病態を明らかとするため、細胞モデル、動物モデルを構築し解析した。SLC12A2は、私たちが日本人難聴患者の遺伝子解析から同定した新規難聴原因候補である。SLC12A2産物はNa+, K+, 2Cl-共輸送体として、内リンパ組成の恒常性維持に必須である。本研究では1) 細胞培養系を用い、SLC12A2変異体がイオン透過性を消失し、細胞膜への移行には異常がないことを明らかにした。2) SLC12A2 のexon 21スプライス変異のスプライシング活性変化を評価した。また、スプライシング効率を簡便にかつ定量的に計測し、スプライシング調節剤のハイスループットスクリーニングに応用できるアッセイ系を開発した。3) exon 21領域にSlc12a2変異をもつ遺伝子改変動物モデルをゲノム編集技術により2系統作出し、一部の解析を開始した。2系統ともに繁殖効率が低く、計測できた個体数が少ないものの、少なくとも1系統では変異ホモマウスで聴力閾値上昇がみられた。現在変異ホモ・ヘテロ個体について聴力測定を実施し、また内耳を中心に組織化学的解析を開始している。本研究の成果により、SLC12A2が真の難聴遺伝子として認識され難聴遺伝子の保険検査対象に追加されることで、難聴者の原因判明率の向上と、その知見をもととした適切な医療・療育の提供が期待できる。また、病的変異がすべてexon 21上ミスセンス変異あるいはexon 21のスプライス変異である。この部位の分子機構は未知であり、本研究および継続研究により、本遺伝子を原因とした難聴発症分子機能が明らかとなり、学術的発展および治療法開発へつながることが期待される。
本研究成果は遺伝性疾患データベースOMIMにDFNA78(#619081)として登録された。日本で実施された難聴遺伝子解析で、かつ現行の厳しい国際基準を満たしOMIMに承認された原因遺伝子は初である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) 備考 (4件)
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https://research-er.jp/articles/view/88239