研究課題/領域番号 |
18K09337
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
鈴木 真輔 秋田大学, 医学系研究科, 准教授 (90312701)
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研究分担者 |
川嵜 洋平 秋田大学, 医学部附属病院, 講師 (00644072)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 頭頸部癌 / CD147 / 微小環境 / 炎症 / ケモカイン |
研究実績の概要 |
近年、癌と炎症との深い関係性が指摘されている。頭頸部は様々な刺激に晒される部位であり、慢性的な炎症との関連が特に注目され、炎症反応と頭頸部癌の関連性の解明は新たな頭頸部癌治療の開発につながると考えられている。我々はこれまで一貫して細胞膜タンパク質であるCD147の癌進展への関与を研究し、最近ではこのCD147の発現が頭頸部癌の転移に強く関連することを臨床サンプルによる検討で明らかとした。また、炎症反応において主要な役割を持つS100A9とCD147の結合が頭頸部癌細胞の遊走能を亢進させることを確認している。一方このCD147を中心とした頭頸部癌と炎症性微小環境のメカニズムは解明されていない。本研究は、この分子メカニズムを明らかとすることを目的とした。その成果は頭頸部癌の新たな治療標的の開発にとどまらず、発癌や再発予防などの新たな治療戦略につながることが予想される。 本研究では、炎症に関連するとされるケモカインであるCXCL12 (stromal cell-derived factor 1:SDF-1)とその受容体であるCXCR4の頭頸部癌における機能として、SDF-1/CXCR4軸が下咽頭扁平上皮癌細胞株であるFaDuの遊走能と浸潤能を誘導することを確認した。またこれらの癌進展能の亢進にCD147が介在していることを確認し、SDF-1/CXCR4軸により誘導される頭頸部癌進展の機序を解明した。またCD147の活性化により誘導される細胞内シグナル伝達因子としてMEKが重要な働きを持つことを同定した。さらに、臨床検体を用いた検討により、CD147の過剰発現が下咽頭扁平上皮癌患者の予後不良因子であることを確認した。さらに、放射線によって誘導される頭頸部癌細胞の遊走能亢進に、炎症性サイトカインであるIL-6が関与していることを確認し、放射線治療後の再発・転移に炎症性環境が関与している可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炎症性ケモカインであるSDF-1とその受容体であるCXCR4が頭頸部癌細胞の腫瘍進展能およびCD147との関連性について解明を行った。またCD147から誘導される腫瘍進展能に関わる細胞内シグナル伝達経路の特定および炎症性サイトカインの関与が確認された。また臨床検体を用いた検討により、CD147が頭頸部癌患者の予後予測因子であることも確認され、今後の研究の継続に必要な条件が基礎的および臨床的な両側面から提示されている。
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今後の研究の推進方策 |
CD147と炎症関連物質との関連性、およびその分子機構の解明を進めるため、引き続き分子生物学的手法を用いた解析を進める。特に、それぞれの炎症関連因子に関連する細胞内シグナル伝達経路の解明を行う。これらの結果をもとに、頭頸部癌治療の標的となりうる因子を同定し、その抗腫瘍進展効果を確認する。 また、頭頸部癌患者の血清中における炎症関連因子と、腫瘍進行度や薬剤有効性、予後などの臨床因子との相関について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験遂行にあたり条件の設定に時間を要したため、研究の進捗に遅れが生じた。またCovid-19感染拡大のため、他研究施設との共同研究作業に遅延が生じた。次年度はこれまでの研究実績に基づき、様々な腫瘍関連因子の頭頸部癌における役割やその機序の解明のための解析を進めて行く。
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