唾液腺導管癌は乳腺導管癌に類似した病理組織像を呈し、悪性度の極めて高い唾液腺腫瘍である。発生母地の観点からは、正常唾液腺に発生する新規癌と、多形腺腫に由来する悪性転化癌とに大別される。さらに、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)の遺伝子増幅の有無を軸としてゲノム医療(precision medicine)の格好のターゲットになりうる。本研究は、多施設から集積した唾液腺導管癌検体のゲノム解析研究と、疾患動物モデル、オルガノイドを用いた実験的研究とを組み合わせ、患者選択の基準となる治療効果予測因子を同定することを目的とする。 多形腺腫由来癌に注目し、導管癌に特徴的なHER2増幅を初めとしたドライバー変異が悪性転化のどの段階で生じているのか、同一症例における正常組織、多形腺腫、導管癌それぞれの成分のゲノム解析を実施した。癌関連遺伝子のエクソン解析、 遺伝子コピー数解析、遺伝子発現解析、融合遺伝子検出、hypermutator phenotypeの同定、マイクロサテライト不安定性 (MSI; Microsatellite Instability)を検出し統合的に解析した。その結果、多形腺腫の段階でがん抑制遺伝子の不活化が生じていること、同時にゲノム不安定性が生じ、導管癌ではHER2増幅を初めとしたコピー数異常が著増しており、これらが発癌のドライバーになっていることが示唆された。これらは、多形腺腫に由来しない新規癌においてHRAS遺伝子やPIK3CA遺伝子の活性型変異が認められることと対照的であり、治療標的の選択につながる。
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