研究課題/領域番号 |
18K09341
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉川 弥生 東京大学, 保健・健康推進本部, 助教 (00452350)
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研究分担者 |
菊田 周 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (00555865)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 内耳 / 嗅覚 / 神経保護 |
研究実績の概要 |
平成30年度にはまず蝸牛組織・細胞の低酸素環境下での培養法の確立を目指した。P3蝸牛組織の体外培養が確立でき、アミノグリコシド系薬剤であるゲンタマイシンを使った薬剤性障害も惹起できた。ゲンタマイシンを蝸牛培養液に添加して6、12、24時間経過時の内・外有毛細胞の障害を調べたところ、特に12時間後において、神経細胞に特有のネクロプトーシス(制御されたネクローシス)が起こっていることが確認できた。ネクローシス様の細胞死においてはミトコンドリアの呼吸鎖 complexⅠからの ROS 産生が重要であるとされており、ネクロプトーシスの実行には、RIPK3と呼ばれるキナーゼとその基質であるmixed lineage kinase like(MLKL)が必須であるとされているが、本研究では有毛細胞内でMLKLが上昇していることが確認できた。 嗅覚系においては、C57BL/6マウスを自発運動群、20%カロリー制限群、コントロール群に分けて、10か月後の蝸牛、嗅上皮、嗅球での免疫組織学的所見を各群で比較検討したところ、嗅覚系においては、自発運動やカロリー制限は負の効果をもたらし、背側領域の嗅細胞では、嗅細胞数ならびに成熟嗅細胞数は有意に減少していた。また、この領域での細胞死が有意に亢進していた。さらに細胞死の亢進は背側領域の嗅細胞がもつ細胞内酵素であるキノンの発現に一致しており、酸化ストレスのマーカーの発現亢進も観察された。さらに嗅球背側領域での匂い刺激によって誘発される嗅球糸球体層のc-fos陽性細胞数はコントロール群と比較して有意に減少していた。酸化還元酵素であるキノンは活性酸素の産生を仲介することが知られており、運動負荷やカロリー制限は、背側領域のキノン含有嗅細胞において活性酸素の増加を引き起こすことで嗅上皮障害をもたらしたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画ではマウスの聴覚神経系解析のためにBrainbowマウスを輸入する計画であったが、海外からの手続き・検疫に時間がかかり、遅れたため。また、低酸素培養の確立にも時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
神経線維をマルチカラー蛍光発色させて個々を識別可能にしたBrainbowマウスを用い、有毛細胞の染色と合わせて蝸牛系の3次元観察手法を確立したのち、様々な条件下での飼育・体外培養を行った後の蝸牛神経系の発達過程、および再生過程を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
Brainbowマウス輸入手続きに時間がかかっており、次年度この費用として使用する。
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