研究課題/領域番号 |
18K09350
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
大國 毅 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40464490)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | p63 / ヒト鼻粘膜上皮 / 上皮バリア |
研究実績の概要 |
1)正常(肥厚性鼻炎),および慢性副鼻腔炎患者より採取したヒト鼻粘膜組織と鼻茸組織に対し免疫染色を行ったところ,p53がん抑制遺伝子ファミリーに属する転写因子p63,およびそのisoformの一つである⊿Np63が,慢性副鼻腔炎患者で発現増加しているのを認めた.またp63の調節に関わるヒストン脱アセチルか酵素(HDAC)のうちHDAC-1およびHDAC-6の発現も慢性副鼻腔炎患者で増加していた.上皮バリアを担う細胞間接着装置 -タイト結合を構成するタンパク質claudin-1とclaudin-4の発現は慢性副鼻腔炎患者で低下した. 2)正常ヒト鼻粘膜上皮細胞において,p63および⊿Np63をノックダウンさせたところ,蛋白レベルでclaudin-1とclaudin-4の発現増加と認めた.claudin-1,4の発現に関連する転写因子SP1の発現も増加した.TER実験で上皮バリア機能亢進,脂質アナログを用いたフェンス機能実験では機能亢進がみられた.走査電子顕微鏡では,細胞表面で線毛様構造の増加を認めた. 3)正常ヒト鼻粘膜上皮細胞へRSVを感染させると,免疫染色およびウェスタンブロットにてp63発現低下,claudin-4,occludin発現増加を認めた. 4)正常ヒト鼻粘膜上皮細胞に対しNF-kBのinhibitor(クルクミン)全HDACに対するinhibitor(TSA)HDAC-1,6の各inhibitor,p38MAPKのinhibitor(SB230580)を処置したところ,免疫染色,ウェスタンブロットにてp63の発現抑制,claudin-4,occludinの発現が亢進し,TER実験にて上皮バリア機能が亢進していた. 以上から,p63はヒト鼻粘膜上皮バリアにおいて,負の調節機構に関連し,p63を抑制することにより感染,抗原防御に有利に作用する可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度に実施する実験においては,ほぼ終了し有意義な結果を見出すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
正常ヒト鼻粘膜上皮細胞の恒常性,特に細胞間接着装置の負の発現調節に転写因子p63が関連していることが確認された.p63は,細胞外基質やギャップ結合を介した細胞間コミュニケーションにも関連していることが考えられている.またp63は,多細胞生物における後天的な遺伝子発現制御を調節するHDACのinhibitorにより発現抑制することが認められた.Rho kinase inhibitorであるY27632は,reprograming cultureにおいて重要な因子であり,気道上皮細胞においてprogenitor clone formationを亢進するとされる.Y27632をヒト鼻粘膜上皮細胞に対し長期間処置し,DNA aray解析したところ,p63の発現が増加するとともに,ギャップ結合分子,薬物代謝酵素,多様な代謝ネットワークの制御因子であるKLF familyの一部の発現亢進,タイト結合分子の発現低下を認めた.今後,これらの詳細な調節システムを解明するとともに,ヒト鼻粘膜におけるp63の役割を明らかとしたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用する薬液の消費個数が予定より少なかったため。 次年度の実験において,材料となるヒト鼻粘膜上皮細胞のサンプリング,培養を強化する予定であり,培養液等にあてる予定である。
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