研究課題/領域番号 |
18K09353
|
研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
杉山 庸一郎 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50629566)
|
研究分担者 |
梅崎 俊郎 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 教授 (80223600)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 喉頭 / 嚥下 / 生理 |
研究実績の概要 |
嚥下障害の克服とくに高齢者や脳血管障害含めた多くの嚥下障害患者にとって嚥下惹起障害は致命的な病態である。球麻痺ふくめた運動出力障害は手術やその他代償嚥下法などで摂食機能改善が可能となるのに比べ、感覚障害はそれがどのレベルで生じるにせよ、改善手段がほとんどないのが現状である。その難題に取り組んだ研究が当該研究である。干渉波電気刺激は痛み刺激を伴わず、深部の感覚刺激を可能とする刺激法で、嚥下障害患者への応用が報告されつつある。しかし、理論的基盤がほとんどなく、臨床応用が先行してしまっていることが危惧される。すなわち、ヒトで嚥下障害に対する改善効果が示されても、それがどのレベルで、どのような効果をもって嚥下機能改善に貢献するのかについて基礎的検証がなされていない状態で臨床応用が進んでしまっているのである。これは本質的に嚥下を制御している中枢への影響やその限界、さらには刺激の適正化という点でも好ましくない。そこで本研究では嚥下惹起障害に干渉波電気刺激が効果的であるかどうかを動物実験モデルで検証した。動物実験用に特別に作製した干渉波電気刺激装置を用い、除脳非動化モデルという嚥下時の「動き」による感覚フィードバックに依存しない、運動出力パターンだけを解析できるモデルにおいて干渉波電気刺激による嚥下惹起促通効果について検討した。その結果、干渉波電気刺激は咽頭喉頭感覚神経を経由して脳幹に存在する孤束核という内臓求心性入力の一次到達領域に情報が伝達され、嚥下惹起性を改善する可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小動物に用いることができる干渉波電気刺激装置を除脳非動化モデル動物の皮膚に設置し、上喉頭神経電気刺激を嚥下惹起として利用した。上喉頭神経電気刺激開始時から嚥下関連反回神経活動までの潜時の変化を干渉波電気刺激の有無とその強度により解析した。上喉頭神経電気刺激は嚥下惹起遅延モデルを模倣するために嚥下が起きる閾値に近い刺激強度で刺激した。そのため、上喉頭神経電気刺激開始時から実際の嚥下惹起が起きるまでの時間すなわち潜時は長くなる。その状態で干渉波電気刺激を加えると、嚥下惹起までの潜時が短縮する傾向がみられた。そして、孤束核の機能を抑制することで、その干渉波電気刺激効果が減弱した。孤束核は咽頭喉頭感覚入力の伝達領域であり、孤束核に到達した感覚入力が蓄積して嚥下を惹起するのであるから、この結果は干渉波電気刺激装置が嚥下惹起に必要な刺激をサポートしているという仮説を補佐する結果となった。
|
今後の研究の推進方策 |
干渉波電気刺激が嚥下惹起を促通することが示唆されたが、実際に嚥下を惹起しているのは嚥下セントラルパターンジェネレーターという脳幹に存在する神経ネットワークである。この神経ネットワーク自体に効果がおよばなければ嚥下惹起自体に直接関与するということは証明されない。そこで、干渉波電気刺激が嚥下セントラルパターンジェネレーターを構成する嚥下関連ニューロン活動に影響を与えるかどうかを除脳非動化モデル動物を用いて検証する。動物実験用に用いる特製干渉波電気刺激装置はファンクションジェネレータ機能を用いることで様々な条件での干渉波波形を作成できる。刺激によるアーチファクトと、上喉頭神経電気刺激から孤束核までの神経伝達で生じる時間を考慮して、適切な刺激条件を設定し、干渉波電気刺激による嚥下関連ニューロンの反応を観察する。嚥下関連ニューロン活動は延髄の孤束核とその周辺に存在する。定位脳固定器に設置した動物に微小電極を3次元マニピュレータを用いて正確に挿入していく。上喉頭神経電気刺激により誘発する嚥下時に、嚥下関連活動を呈するニューロンを記録しながら干渉波電気刺激による応答を観察する。嚥下関連ニューロン活動は記録が非常に困難であり、干渉波電気刺激による効果を十分検証できない可能性がある。その場合は干渉波電気刺激の刺激波形や時間を上記装置により変更しがなら刺激を適正化する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度における研究は予定通り進行したが、当該年度購入予定物品のうち、一部で次年度購入する必要ができたため、一部を繰越金として次年度にあてた。クランプメーター含めた次年度購入予定物品と合わせて嚥下関連ニューロン活動記録用の装置を構成する予定である。
|