研究課題/領域番号 |
18K09356
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
楠 威志 順天堂大学, 医学部, 教授 (30248025)
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研究分担者 |
中川 大 中部大学, 応用生物学部, 准教授 (40397039)
豊田 優 東京大学, 医学部附属病院, 特任研究員 (80650340)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中耳真珠腫 / 耳垢 / 中耳pH / 外耳pH / ABCC11 遺伝子 |
研究実績の概要 |
中耳真珠腫の発症・進行機構について、耳管機能不全, 鼻すすりの癖, 中耳ガス交換障害 (中耳~乳突蜂巣の含気化不良) 等の内耳環境および外因子の関与が知られている。しかし、外耳環境や内因子と中耳真珠腫成因についての研究の報告は極めて少なく、十分に解明されていない。今回、内因子候補として耳垢型の決定遺伝子ABCC11に注目し、外耳環境を含め中耳真珠腫の発症リスクとの関連性について研究をすすめている。 ABCC11タンパク質はATP binding Cassette Transporterで、細胞膜に局在し、異常タンパク質など(薬物を含め)の排出機能がある。アポクリン腺に発現して代謝物を腺内腔に向けて輸送する。アポクリン腺は、外耳道、腋窩、乳腺などにあり、アポクリン腺にABCC11が多いと湿性耳垢となり、腋臭症が多い。ABCC11遺伝子多型(538G>A)が耳垢の性状(湿性もしくは乾性)を決定することがYoshiuraら(Nature Genetics 38:324-330;2006)によって報告された。16番染色体におけるABCC11遺伝子のー塩基多型(SNP)である538G>AがGGホモあるいはGAヘテロであれば湿性耳垢、AAホモであれば乾性耳垢となる。 Ishikawaら(Frontiers in Genetics 3:306; 2013)は、ABCC11遺伝子の一塩基多型解析によって、湿性耳垢がアフリカ人、ヨーロッパ人に多く、日本人に少ないことを示している。Nakagawaら(Medical Hypotheses114:19-22,2018)は、ヨーロッパ人では日本人と比較して中耳真珠腫の発生頻度が高いことを報告している。我々はABCC11遺伝子多型に伴う耳垢の乾湿の違いが、中耳真珠腫の発生リスクに影響を与える可能性について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
方法:口頭および書面同意を得た中耳真珠腫患者から、手術時に摘出される中耳真珠腫と術後血液を得た。血液から抽出したゲノムDNAを鋳型として、ABCC11 538G>Aを含む領域をPCRで増幅し、当該一塩基多型のシーケンス解析を行った。尚、本研究は、順天堂大学医学部倫理委員会の承認を受けて実施された。 結果:中耳真珠腫43症例において、乾性(538AA:16例)が37.2%に対して、 湿性(538GA:26 例、538GG:1例)は62.8%と、乾性より多く占めた(Kusunoki T etal Journal of Molecular and Genetic Medicine.12:3;2018よりデータの一部引用)。 今回、コントロール群として、健常耳のデータがまだ十分出ておらず比較できなかったが、前述のごとくABCC11遺伝子の一塩基多型解析では、湿性耳垢がアフリカ人、ヨーロッパ人に多く(80-100%)、日本人は少ない(15-30%)。中耳真珠腫罹患率においては。ヨーロッパ人の方が日本人に比べは高いとされている。これらの報告と本研究結果を考慮すると、湿性耳垢が、中耳真珠腫の発症リスクになる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
湿性耳垢から中耳真珠腫が発症しやすい成因として以下の仮説を立て検索中である。 1)湿性耳垢の移動速度低下の伴う炎症の遷延化、デブリ貯留、2)アポクリン腺からの脂質代謝産物などの増加により耳内環境が、脱灰、骨破壊の関する蛋白分解酵素の活性化の可能性、3)耳閉感、掻痒感に対する頻回にわたる耳掃除など生活習慣を含めて検索中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画通り研究は順調に進んでいる。 次年度使用額も少額発生したが、研究費の使用に関しても概ね計画通りである。
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