研究実績の概要 |
ABCC11遺伝子多型(538G>A)が耳垢の性状(湿性もしくは乾性)を決定することがYoshiuraら(Nat Genet, 38:324-330, 2006)によって報告された。ABCC11 538AAが乾性耳垢に対応し、538GG/GAが湿性耳垢に対応する。耳垢成分は、外耳道アポクリン腺(皮脂腺と耳垢腺)の分泌物と外耳道上皮から成る。これまでに申請者らは、ABCC11遺伝子型に基づく耳垢の乾湿の違いが中耳真珠腫の発生リスクに影響を与える可能性を検討し、中耳真珠腫症例群では、健常群と比べて有意に湿性耳垢の割合が高いことを見出している(P < 0.001)。健常耳のコントロール群63症例中、乾性耳垢(538AA:56例)89.9%、湿性耳垢(538GA:7例)11.1%;中耳真珠腫49症例中、乾性耳垢(538AA:16例)32.7%、湿性耳垢(538GA:31例、538GG:2例)67.3%であった。ABCC11遺伝子の一塩基多型には民族差があり、湿性耳垢に対応する野生型アレル(538G)がアフリカ人、ヨーロッパ人に多く(80-100%)、日本人では少ない(10-30%)ことが知られている。中耳真珠腫罹患率についても人種差に関する同様の傾向が報告されていることを踏まえると、申請者らによって得られた結果は、湿性耳垢は乾性耳垢と比べて耳真珠腫の発症リスクになりやすい可能性を示唆していると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中耳真珠腫症例ほか、正常コントロール群の症例も集まり、十分統計処理できる状況になった。その結果をまとめたものが以下の論文に掲載された。 Hara S, Kusunoki T, Nakagawa H, Toyoda Y, Nojiri S, Kamiya K, Furukawa M, Takata Y, Okada H, Anzai T, Matsumoto F, Ikeda K. Association between earwax-determinnat genotypes and acquired middle ear cholesteatoma in a Japanese population. Otolaryngol Head Neck Surg 2021 Mar 16; 1945998211000374. doi: 10.1177/01945998211000374. Online ahead of print. さらに、共同研究で行われているドイツ人症例も集まっている。日独間での中耳真珠腫症例のほか、健常耳コントロール群についてのABCC11遺伝子多型を統計学的に比較もできるようになった。
|