研究実績の概要 |
ABCC11遺伝子多型(538G>A)が耳垢の性状(湿性もしくは乾性)を決定することがYoshiuraら(Nat Genet, 38:324 8211;330, 2006)によって報告された。ABCC11 538AAが乾性耳垢に対応し、538GG/GAが湿性耳垢に対応する。耳垢成分は、外耳道アポクリン腺(皮脂腺と耳垢腺)の分泌物と外耳道上皮から成る。これまでに申請者らは、ABCC11遺伝子型に基づく耳垢の乾湿の違いが中耳真珠腫の発生リスクに影響を与える可能性を検討し、適宜症例を増やし、その結果、中耳真珠腫症例群では、健常者群と比べて有意に湿性耳垢の割合が高いことを見出した。また申請者らは、中耳真珠腫発症リスクと関連する外耳環境因子の一つとして、耳垢のpHに着目している。今回、ABCC11遺伝子の多型に基づいて耳垢を湿性および乾性に分別し、耳垢を懸濁させた水溶液のpHを測定したところ、湿性耳垢ではpH 5.40、乾性耳垢ではpH 5.15という結果が得られ、湿性耳垢の方が有意に中性寄りであった(p < 0.01)。さらに興味深いこととして、耳垢pHが中性寄りの程度と、中耳真珠腫病期分類の進展度と有意に相関関係がみられた。 以上の結果を糸口として、耳垢を含む外耳道内の環境に着目した申請者らは、「pHの偏り、あるいは、それに伴う真菌を含めた微生物叢の変化が中耳真珠腫発症リスクに関与するのではないか?」という仮説を設け、研究を進めている。
|