研究実績の概要 |
我々は、蝸牛・前庭症状を伴う線維筋痛症におけるエクソソームの作用機序の解明をめざして内耳培養細胞をもちいた検証実験を続け成果をあげてきた。内耳細胞すなわち蝸牛・前庭系の培養細胞に対してツニカマイシン(TM)曝露による小胞体ストレスを与え、線維筋痛症のように遠隔症状の生じるメカニズムを細胞死情報やオートファジー情報のエクソソーム伝搬という概念から検証していく新たな実験研究である。 まず内耳細胞がTMに曝露された場合、necroptosisがapoptosisのバックアップのための細胞死制御機構として誘導される、necroptosis誘導因子であるRIPK1, RIPK3, MLKLの複合体の中でRIPK1がdriver geneとして機能していること、caspase8が、necroptosisとapoptosisのリンクをしていることを補助事業期間中に報告した(Int. J. Mol. Sci. 2019, 20, 5896)。 また、前庭上皮細胞に細胞死を起こすexo-miRNAを探索するため、卵形嚢感覚上皮培養細胞UB/UE-1を小胞体ストレス処理し、細胞死モデルの細胞死誘導条件(時間、濃度)を確定した。次に処理細胞の培養液よりエクソソームを抽出し、特異的表面マーカーCD81の発現からエクソソームが単離されたことを確認した。この細胞死モデル由来エクソソームを前庭上皮細胞に曝露し、濃度・時間依存性の細胞生存率の有意な低下を確認した。これは抽出したエクソソームが前庭上皮細胞自体にフィードバック細胞死を誘導することを示唆し、小胞体ストレス誘導性卵形嚢上皮細胞死に伴い細胞外に分泌されるエクソソームが、細胞間コミュニケーションによる細胞死連鎖を誘導する可能性を示唆し、線維筋痛症の症状の遠隔メカニズム解明の一端となり得る可能性を示唆した。
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