研究課題/領域番号 |
18K09365
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
難波 一徳 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 共同研究員 (60425684)
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研究分担者 |
藤岡 正人 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70398626)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | オーディトリーニューロパチー / ANSD / オトフェリン / Otof / Otoferlin / ノックアウトマウス / アポトーシス |
研究実績の概要 |
オーディトリーニューロパチー (ANSD)は外有毛細胞の機能(音響放射, DPOAE)は正常であるが、聴覚神経の活動(聴性脳幹反応, ABR)が観られない感音性難聴の総称である。OtoferlinはOtof遺伝子(Otof)の遺伝子産物で、内耳コルチ器に局在する有毛細胞のリボンシナプスに発現し、聴神経の伝導のためのシナプス小胞の分泌およびリサイクルに重要な責任がある。 Otofの変異を原因とするANSD症例は、現在最も多いと考えられている。申請者は、Otof欠損マウスのラセン神経節においてラセン神経節細胞(SGN)が減少し、それはBDNFの減少を伴う細胞死(アポトーシス)によることを世界に先駆けて発見した(2012-2014年度_若手B, 研究課題番号27491819による)。そこで本研究では、Otof欠損マウスにBDNF等の神経栄養因子を注入することにより、アポトーシス回避によるレスキュー実験を行い、正常なSGNの状態に戻すことを研究目的とする。この治療の確立により、人工内耳などのインプラント技術を用いた際の生体のメンテナンス機能を向上することが可能となる。 本研究で使用する遺伝子改変マウスは、Otofのみがノックアウトされており、Otofのみの不全によるANSDを解析をする必要がある。現存するOtof欠損マウスの受精卵はC57B6N系統(B6)であり、CDH23機能領域に変異があり進行性の難聴を呈する。そこで遺伝子背景をB6でCDH23変異を取り除いたマウスの作成を行うことを検討した。 また、本研究ではABRの測定に加えて、ANSDの機能を測定し解析する必要があり、小動物用のDPOAEの測定装置を必要とする。そこで本研究室において小動物用DPAOE装置の測定環境の立ち上げおよび調整を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題が開始された昨年度、本人の所属の大きな異動があったため、実験室での生化学的実験や動物実験が物理的およびテクニカル上、研究を遂行することが不可能であった。故に採択時当初の予定より遅れていると評価する。 しかし、研究代表者は現所属に至る間に、本研究課題で用いるOtofマウスの遺伝的情報の検証を綿密に行い、またその購入および納入手続きの段取り設定を行った。これにより前段階の研究を踏まえた、本研究課題の無駄のない研究計画の作成および準備をすることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前段階の研究においてC57/B6NをバックグラウンドとするOtofマウスを用いたが、そのバックグラウンドに合わせてデータを取る必要性を考慮した。よって他の系統マウスの戻し交配は行わない。しかしC57/B6マウスはCDH23遺伝子に変異があり、老齢に伴う進行性難聴を呈する。生後6か月以降のC57/B6Nでは、顕著な有毛細胞の減少が観られるため、その時期のSGNに着目したANSDの病態解析に影響してしまう。 そこで、CDH23の変異をゲノム編集により正常に戻した、C57/B6_NTacを用いて交配させ、Otof遺伝子の影響のみに帰属できるANSDの病態を正確に解析することができると考えられる。今後の予定として、Otof遺伝子がノックアウトされたC57/B6_NTacマウスを作成し、継代する環境を設定する。また、小動物用ABRおよびDPOAE装置の環境設定を行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究費(研究課題番号:18K09365)は東京医療センター勤務時に申請したものであり、その後異動があり、研究費採択が決定した際には、国立がん研究センターで常時勤務の状況であった。さらにその後、神奈川県立がんセンター臨床研究所がん分子標的探索ユニットに客員研究員として入所し、7月1日以降は、慶應義塾大学研究室にて研究に必要な遺伝子改変動を作るための分子遺伝的な検討と本研究の予備データの投稿作業を行っていた。 上記の大きな異動があったため、実験室での生化学的実験や動物実験が進められなかった故、次年度使用額が生じた。 翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画では、今年度より手続き中である遺伝子改変マウス樹立のために掛るものと各実験試薬類等の購入のため使用する予定である。
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