研究実績の概要 |
咽喉頭異常感・嗄声・慢性咳嗽などの症状の一部には, 咽喉頭への酸逆流(LPR)に起因するものがあると指摘されている. しかし, PPI抵抗例も少なくなく, LPRの計測ができなかったため, その正確な診断は困難であり LPRの解明は停滞していた. しかし,近年開発された 「24時間下咽頭インピーダンス検査(HMII)」は, LPRの測定を可能とし正確な咽喉頭逆流症 (LPRD)診断を行うことができるようになった.本研究は, HMIIを用いた正確な診断のもと,検査所見や逆流防止手術の治療効果を検討し,また,LPRD動物モデルを利用しLPRDの病態解明を行うことを目的とした. 原因不明慢性咳嗽の73%にLPRDを認め,逆流防止手術を施行したところ全例に症状の改善を認めた.また,保存的治療抵抗性LPRD患者は,逆流防止手術により93%に症状の改善を認めた.術後に3ヶ月以上継続する「食事時のつまり感」を訴えたのは18%であった.以上より,原因不明の慢性咳嗽や咽喉頭症状を有する患者にはHMIIが必要であり,LPRD症例は内科的治療に効果が乏しくても手術治療で治療し得る可能性が示され,原因不明疾患の診断治療の方向性を示すことができた. GERD検査のGoldstandardである上部消化管内視鏡検査と食道インピーダンス検査(MII-pH)はLPRDで正常であることが多い事,LPRD患者の肥満率は低い事,食道運動障害は少ない事,弱酸性の逆流であっても咽喉頭に達すると症状を誘発することがLPRDの病態であり診断を難しくする要因であることが示唆された.唾液中ペプシン濃度はLPRDの有無で有意差はなく新たな検査方法とはならなかった. LPRD動物モデルはコロナ禍で実験遂行が難しかった.
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