研究課題
感音難聴に対する人工聴覚器としては人工内耳と残存聴力活用型人工内耳(EAS)がある。人工内耳に関しては補聴器、人工内耳による語音聴取成績の比較から、人工内耳の適応レベルの評価が重要である。本年度は補聴器よりも人工内耳の成績が勝るクリティカルポイントを見つけるための検討を行い、論文化した。また、日本の高齢化に伴い人工内耳対象者も高齢化が考えられる。本年度はこれまでの人工内耳装用者の中で高齢者の成績に関して検討し、今後の課題を見出し、論文化した。また、海外では一側高度難聴に対する人工内耳が実施されている。今後本邦で実施するためにはその有用性の評価が重要である。本年度は臨床研究で実施した症例を報告し、その有用性を評価するための方向感検査の準備を整えた。当院では年間100例ほどの難聴遺伝子検査と人工内耳手術を実施している。次年度以降は人工内耳装用者の難聴遺伝子検査結果とその成績の評価と一側難聴に対する方向感検査データ収集を行っていく。伝音・混合性難聴に対する人工聴覚器としてはBaha、Bonebridge、人工中耳(VSB)がある。これら3種類の人工聴覚器の選択基準を提唱することは本研究目的の1つである。伝音・混合性難聴の代表的疾患として先天性外耳道閉鎖症がある。この疾患に対して、Baha、Bonebridge、VSBを実施し、音質評価による違いを評価した(現在論文作成中)。その結果、骨導インプラントに分類されるBahaとBonebridgeは同程度であり、人工中耳VSBが最も良い結果を示し、人工中耳が第1選択とすべきことを提唱した。臨床研究で実施したBonebridgeの成績も論文として報告した。人工中耳VSB手術は病態ごとで術式が異なることも本年度の研究で見いだすことができた。先天性外耳道閉鎖症は小耳症を合併する。次年度以降は耳介形成術を考慮したVSB術式を提唱していく。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は我々が想定していた以上に人工内耳、人工中耳の手術症例数と難聴遺伝子検査実施数が多かったので、当初の計画よりは検討が進んだ。平均聴力レベルが70dB以上、補聴器装用下の最高語音明瞭度が50%で人工内耳の方が補聴器よりも成績が上回る結果を示すことができた。本年度に実施した人工内耳症例108例のうち約7割で難聴遺伝子検査が実施できたので、次年度は成績との比較データを示すことができる目安がたった。また、人工中耳VSB手術症例数も20症例を越し、適応と術式選択の基準案を作成することができた。人工聴覚器の選択には原因診断に基づいた治療戦略が重要である。先天性感音難聴の原因で難聴遺伝子変異に次ぐものは先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症である。本年度は先天性CMV感染症のスクリーニング検査法を提唱でき、論文化できた。
本年度に難聴遺伝子検査を実施して人工内耳手術を行った症例の成績を2019年度はまとめることができる。また、一側性難聴に対する人工内耳の有用性評価のためには方向感検査と雑音下の語音検査が有用と考えている。本年度研究費で購入できた方向感検査装置を使用して、小児から高齢者までの一側難聴の方向感に関するデータ収集を行っていく。人工中耳VSBの代表的な適応疾患である先天性外耳道閉鎖症は小耳症を合併する。耳介形成術と人工中耳手術のタイミング、お互いを考慮した術式の検討が課題としてわかった。今後は形成外科医と連携して、この課題に対応していく予定である。
方向感検査装置のスピーカとスピーカ設置台が特注のため、装置が届くまで時間がかかってしまった。平成31年3月下旬に装置が届き、そのため支払い手続きが年度内に済ませることができなかったため。
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Acta Otolaryngol
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