研究課題
「原因診断に基づく人工聴覚器の使い分け指針の確立に関する研究」において、原因診断を次のように分類して評価を行った。① 遺伝子診断結果別、② 両側難聴と一側難聴別、③ 先天性難聴と後天性難聴別、④ 術前の聴力検査と語音検査結果別、⑤ 術前の前庭機能検査結果別で評価した。また、人工聴覚器としては人工内耳、残存聴力活用型人工内耳(EAS)、人工中耳(Vibrantsoundbridge: VSB)を使用して評価した。また、両側人工内耳が増加傾向にある中で、今後の人工内耳の使い分けとして、同時手術と逐次手術の評価を行い、選択基準作成のための基礎データを提示した。具体的には以下の項目の評価を行なったので、それぞれの結果を示す。1、人工内耳装用者と遺伝子変異;その成績の評価。2、一側難聴に対するVSBの評価。3、一側難聴に対する人工内耳の評価。4、両側人工内耳の同時手術と逐次手術の評価(小児と成人)。5、先天性難聴者の成人人工内耳の評価。6、人工内耳装用者の術前前庭機能評価。7、術前聴力と補聴器装用下語音成績による人工内耳適応基準の評価。今回の研究で原因診断別の要因として、難聴遺伝子検査陽性例、一側難聴例、言語習得前失聴の成人例、術前の聴力レベル・補聴器装用下の語音明瞭度、前庭機能別に人工聴覚器の使い分けについて検討した。小児人工内耳の適応決定には難聴遺伝子検査は有用と判断された。一側難聴は人工内耳、人工中耳ともに有効性が認められ、今後適応とすべきと考える。言語習得前失聴の成人に対しては聴覚口話法で教育を受けてきた場合は人工内耳の有効性が期待できる。現時点では聴力レベル70dB、補聴器装用下最高語音明瞭度50%どちらかの条件に合致すれば人工内耳の適応になると考えられる。術前前庭機能検査結果は聴力温存手術の必要度に反映すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
今回の研究で得られた結果と課題について記載する。我々は、当科で人工内耳手術かつ遺伝学的検査を行なった症例に対し、遺伝学的検査の結果及び術前後の聴取能に関する検討を行なった。言語習得前発症難聴症例においては50%(12/24)で遺伝子変異が同定された一方、言語習得後発症難聴群では11%(7/63)の同定率にとどまり、言語習得前発症難聴群は遺伝子変異同定率が高く、さらに陰性群に比べ陽性群で術後成績が良好であったことから、言語習得前失聴の場合は人工内耳の適応決定に遺伝子検査は有用であると考えられた。人工中耳装用閾値、語音弁別検査(静寂下および騒音下)いずれも改善がみられ、さらに方向定位検査においても術前と比較して方向定位能力の改善がみられ有効性が示された。両側難聴と異なる点として、いずれの検査も装用3ヶ月以降も継時的に改善傾向がみられていた。一側性伝音・混合性難聴に対する人工中耳評価には一定の装用期間が必要であると示唆された一側聾症例における両耳聴効果をさらに実現するため、今後一側聾に対する人工内耳埋め込み術の導入が期待される。小児と異なり、成人の場合は遺伝子変異の有無は両側同時手術を選択する理由になっていなかった。今回の症例においては、聞こえ方を重視して両側同時手術を選択していたと考えられた。同時手術群内で術後成績が良好な症例は、難聴期間が短いため聴覚活用がより早期からなされた可能性が考えられた。高度難聴やEASの対象者には術前の前庭機能検査の結果を踏まえ、より内耳への低侵襲手術を心がけていく必要がある。両側同時手術か逐次手術かの選択にはどの要素が重要か、今回の研究ではまだ明示する事は難しかった。今後さらに症例数を増やして検討して行く必要がある。
遺伝学的検査陽性群(n=9)及び遺伝学的検査陰性群(n=48)での比較でも術前後の成績はそれぞれ改善していたものの、有意差は認めなかった。言語習得前群の中で遺伝学的検査陽性・陰性で検討すると、陽性例の方が陰性例に比してやや術前後での改善度が大きかったので、さらなる検討が必要である。一側聾症例における両耳聴効果をさらに実現するため、今後一側聾に対する人工内耳埋め込み術の導入が期待されるため、さらなる検討が必要と考える。術前平均聴力レベルには差がなかったが、良好群では難聴期間が比較的短く、術前の補聴器装用下での単音節聴取成績が不良群に比して低かった。また、良好群では、術後音声でのコミュニケーションを多く取っている印象がみられたので、さらなる検討が必要と考える。医療技術・人工内耳、補聴器の機器の進歩による聴取成績の向上により,人工内耳適応基準は今後も変化する可能性があり、定期的に検証していく必要があると考える。本研究費は2020年度が最終年度となったが、今後も人工聴覚器手術は継続して実施し、様々な適応基準に関して海外の状況も考慮して、見直していきたいと考える。そのための科学的データを示していく作業は継続していく必要があると考えている。研究成果の論文掲載は2020年度までに間に合わなかったので、2021年度中に成果の論文発表を行っていく。
2020年度中に投稿した論文の掲載費用の請求が年度中に間に合わなかったため、その費用を次年度に繰り越した。
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