研究課題/領域番号 |
18K09383
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
坂口 博史 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00515223)
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研究分担者 |
瀧 正勝 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30453111)
上山 健彦 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 准教授 (80346254)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遺伝子治療 / ゲノム編集 / 内耳 / 聴覚 |
研究実績の概要 |
本研究ではゲノム編集を用いた内耳への遺伝子導入ならびに遺伝子点変異による感音難聴の新規治療を目指して技術の確立とゲノム編集による細胞の表現型回復を目指して研究を進めている。今年度は妊娠マウスを用いて胎仔の耳胞への遺伝子導入手法の確立ならびに内耳感覚上皮細胞への遺伝子導入効率の向上を目指して各種条件のタイトレーションを行なった。遺伝子導入効率の確認にはCMVプロモーター下にEGFPを発現するレポーターコンストラクトを用いて、胎児の耳胞内にプロモーターを注入しエレクトロポレーションにより遺伝子導入を行なった。胎生12日目の耳胞に対して遺伝子導入を行い、生後1日目にEGFPの発現を検証したところ、当初は少数の非感覚上皮細胞に遺伝子導入を確認することができたが、感覚上皮細胞での遺伝子導入は得られなかった。エレクトロポレーションのパルス条件ならびに投与試薬の条件を変化させたところ、感覚上皮細胞にもEGFPの発現を得られた。生後1日目の内耳においてEGFP陽性細胞をカウントしたところ、感覚上皮に含まれる有毛細胞ならびに支持細胞のうち約5%の細胞でEGFP発現が陽性であることを確認できた。また、ゲノム編集による遺伝子治療のターゲットとなる感音難聴に関して、本邦で同定された遺伝子点変異による遺伝性難聴を候補として、モデルマウスを用いてその病態ならびに遺伝子発現に関する解析を行なった。候補遺伝子はヒト遺伝性難聴の原因遺伝子であり、細胞内アクチン制御に関わっていることが知られている。同分子の局在を免疫組織化学法を用いて調べたところ、不動毛ならびに細胞間結合に集積することが判明した。また、同分子の変異により、有毛細胞の不動毛形成の障害およびシナプス障害を生じることが判明した。現在点変異の修復に用いるためのコンストラクト作成を行なっており、完成すれば実際のゲノム編集効率を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
内耳は解剖学的にアプローチが難しい臓器であり、ゲノム編集を用いた遺伝子治療を実現する上では、内耳への遺伝子導入技術の確立が必須となる。特に本研究においてはエレクトロポレーションによる生体内への遺伝子導入が必要となるが、このような手法は一般には確立されておらず、各施設において技術の修得が必要となる。研究の端緒として胎生マウスを用いて胎児の耳胞に対する遺伝子導入を行ったが、当初の手法では胎生致死となることも多く技術的な困難に直面した。しかしながら、今年度の研究においては胎児への投与時期、投与の条件を改善し、結果として胎生致死の確率を大幅に減少することができ、生後マウスにおける導入遺伝子の発現を十分に観察しうるだけの実験系が確立された。また、本研究で対象となる遺伝子は感覚上皮細胞でのゲノム編集が必要となるが、一般に感覚上皮細胞への遺伝子導入は非感覚上皮細胞に比べて導入効率が低い。この点に関してもエレクトロポレーションのパルス強度の調整やコンストラクト濃度の調整により導入効率を高めることができ、結果として感覚上皮細胞においても5%の細胞で発現を得ることができた。今後の実験において細胞の形態学的な検討をしうる条件が整い、研究の速やかな進行が期待される。また、ゲノム編集技術を内耳疾患に応用するためのモデルとして、特定の遺伝性難聴モデルマウスの組織学的ならびに分子生物学的解析を進めることができた。ヒトの表現型から推測すると同モデルマウスにおいては、内耳のみならず骨髄細胞においても表現型が出ると予想され、今後は内耳と比べて遺伝子導入や表現型解析が容易な骨髄細胞に対しても実験系を拡大することができ、内耳への適応を進めるためのポジティブコントロールとして用いることができると考えている。これにより、遺伝子導入効率ならびにゲノム編集効率の検証が容易となり、研究のさらなる加速が可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまずターゲットとなる遺伝性難聴に対するプラスミドコンストラクトの作成とCRISPR/Casシステムの機能検証を行う。標的配列切断用のCRISPR/Cas9コンストラクトと、HDR用またはNHEJ用の2種類のドナーDNAコンストラクトを作成し、正常配列を含む2種のドナーDNAコンストラクトも同時に作成する。ミスマッチ切断アッセイにより標的遺伝子の切断が生じることを確認し、完成したコンストラクトを用いて野生型マウス耳胞での遺伝子導入効率の確認を行う。また、ゲノム編集効率については、手技的に難しい生体内耳での実験に先立って、骨髄系細胞を摘出培養し同じコンストラクトの遺伝子導入を行うことで、より容易に検証することができる。生体への遺伝子導入にはこれまでに確立した手法を用いて、子宮壁から耳胞にマイクロインジェクションし、エレクトロポレーションを用いて遺伝子導入する。次いで摘出した内耳を用いて遺伝子修復効率を検証する。変異型マウスで発現する変異遺伝子と正常型遺伝子それぞれの特異的プライマーセットを用いて、定量的PCRによりmRNAの発現量を比較する。さらに遺伝子修復が生じれば同遺伝子の発現が回復するため、免疫組織化学で発現する細胞数をカウントし、修復効率を確認する。また、ゲノム編集促進剤であるSCR7等をプラスミドと同時にインジェクションし、条件のタイトレーションを行う。次に細胞の機能修復について、遺伝子導入したマウスの内耳を用いて組織学的に検証する。まずゲノム編集で遺伝子修復が生じれば、分子の正常な発現パターンを呈するはずであり、これを免疫組織化学で検証する。さらに変異マウスでは分子の機能欠失により生後直後から不動毛の形態やシナプス形成に異常がみられるため、このような形態異常が正常化するかどうか、光学顕微鏡と走査電子顕微鏡を用いて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年に予定していた実験を遂行するにあたり必要となる経費が縮小できたため。
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