現在まで報告が少ないヒトにおける咽喉頭の化学受容器の役割を調査するために、咽喉頭に味刺激を与え、唾液分泌効果と嚥下促進効果を検討した。26人の健常人に直径1 mmのシリコンチューブを口腔から挿入し、水、0.3M NaCl(塩味)、0.04M 酒石酸塩(酸味)、0.15M MSG(うま味)の各0.3mlをなるべく物理的刺激がないようにシリンジポンプを用いて咽喉頭、舌前方にそれぞれ注入し、1分間の唾液量を調べた。また咽喉頭においては同様の方法で味刺激を呈示し、嚥下潜時時間を評価した。 結果は、従来の報告通り、舌では味溶液刺激よる唾液分泌は水以外で促進され、酸刺激でもっとも促進効果がみられた。一方、咽喉頭部刺激では味を認識したかどうかで反応は異なり、味を認知しなければ味質による唾液分泌効果は確認されなかった。水受容器の水刺激による唾液分泌効果も明らかではなかった。また嚥下に関しては、酸でもっとも嚥下潜時は短くなり、有意な嚥下促進効果がみられた。味を認識しなかった例に限っても同様の結果であった。うま味に関しては有意な差は認められなかったが過去の報告通り、水と塩味溶液の中間の値となった。 これらのことから、ヒトにおいて咽喉頭の酸刺激は味覚の感覚がのぼらなくても嚥下促進効果があり、この嚥下促進効果は唾液分泌に起因するものではないことが確認された。これらは、酸味による咽頭嚥下促進効果は毒物排除の観点ではなく胃酸の咽喉頭逆流防止の一つのメカニズムではないかと考えられた。
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