研究実績の概要 |
糖尿病網膜症の病態において、分子シャペロンαBクリスタリンの役割及び分泌について、検討を加えてきた。これまで、ストレプトゾトシン誘導糖尿病モデルマウスにおいて、光干渉断層計を用いて網膜色素上皮(RPE)・脈絡膜複合体の厚みを測定したところ、誘導2か月で最大の肥厚が示唆された。この時点で、RPE・脈絡膜複合体を摘出し、総蛋白を抽出し、αBクリスタリン、終末糖化産物(AGE), VEGF-Aの発現を調べたところ、αBクリスタリンの発現はコントロールに比較し低下したが、AGE, VEGF-Aの発現に有意な変化はなかった。酸化ストレスマーカー(HNE)でRPEの免疫組織化学的検討を行ったところ、糖尿病誘導2か月でRPEにおけるHNEの発現が上昇していた。培養RPE細胞を用いて高血糖負荷を行ったところ、48時間でαBクリスタリンの発現は低下していたが、αBクリスタリンの分泌は見られなかった。血糖降下薬であるメトホルミンを処理すると、αBクリスタリンの発現はさらに低下した。 増殖糖尿病網膜症患者の血清を前向き研究で採取し、αBクリスタリンの濃度を測定したところ、対照群(網膜前膜、黄斑円孔患者)と有意な相関はなかった。一方、AGEは前者で有意に上昇していた。 以上より、糖尿病網膜症の病態において、RPEにおけるαBクリスタリンは発現がむしろ低下しており、これはその分泌の亢進によるものではないことも判明した。現在、これは高血糖に伴うRPE細胞の障害により、αBクリスタリンの発現低下が見られる可能性があり、むしろRPEの不可逆的な障害を反映している可能性がある。他方、メトフォルミン投与によりさらなるRPEにおけるαBクリスタリンの低下が見られた機序は不明であり、今後の解析が必要である。
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