1.研究開始当初の背景)Protein S (PS) は血液凝固系の抑制以外に細胞死制御や抗炎症作用、糖尿病(DM)の膵β細胞保護効果をもつが、糖尿病網膜症(DR)や糖尿病黄斑浮腫(DME)での役割は不明である。 2.研究の目的)DR進行阻止における凝固関連因子、とくにPSの役割を臨床検体ならびに培養細胞・動物モデルを用いて明らかにし、新規治療薬や病状進行の早期マーカーの開発への礎とすることを目的とする。 3.研究の方法)患者から採取した検体(血液ならびに前房水)を用いて、PS濃度を測定した。手術加療を要する、PDR・DME患者(DM群)ならびに、糖尿病のない他疾患患者(non-DM群)を対象とした。得られた検体中のPS濃度をEnzyme-Linked Immunosorbent Assay (ELISA)により定量した。結果はDM群とnon-DM群間で比較を行うが、DM群での濃度測定結果はDRの病期別ならびにDMEの有無・DMEタイプ(漿液型・膨化型・嚢胞型)での比較を行った。剖検眼を海外アイバンクから入手し、ヒト糖尿病網膜におけるPSの局在を検討した。眼内増殖組織におけるPSの発現硝子体手術時には眼内組織も採取しPSの発現量や局在を検討した。またDMマウスモデルを用いて実験を行う。STZマウスをDMモデルとして、血液や網膜を採取しPSの挙動を検討した。 4.研究成果)血中動態と異なり、眼内のPSはDM眼で疾患の重症度に準じて増加していた。とくにDMEにおいて著明に上昇していた。ヒト剖検眼を用いた検討でも、糖尿病網膜でのPS発言が認められた。また、術中採取した嚢胞様腔を染色し、PSが腔内に集積していることが明らかとなった。マウスDMモデルの網膜ではPSの著明な発現は認められなかった。以上から、PSはDR/DMEと密接に関与することが明らかとなった。
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