研究課題/領域番号 |
18K09406
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松下 賢治 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (40437405)
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研究分担者 |
國吉 一樹 近畿大学, 医学部, 講師 (30234470)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 錐体OFF反応 / 紫外線および緑LED / 薬理学的解析 |
研究実績の概要 |
高眼圧モデルマウスにおいて網膜神経節細胞障害をきたす初期段階で網膜内網状層 (IPL)のOFF層がON層より先行して障害を受ける。マウスの錐体OFF反応は小さいためヒトで用いられるlong-duration ERGでは捉えることができない。近年フリッカ ERGでON, OFF経路が分離できることが報告された。そこで我々は特異的波長スペクトラムを持つ紫外線および緑LEDを用いて錐体ON,OFF経路の薬理学的解析を行った。8-10週齢のC57BL6Jマウスにて紫外線および緑LED刺激による錐体フラッシュ、フリッカERG (5-30 Hz) を記録し、ON経路,OFF経路のブロッカーであるL-AP4、PDAを硝子体内投与し紫外線、緑LED刺激による反応を比較解析した。 紫外線、緑LED刺激フラッシュERGは同様の反応曲線を呈していたが、紫外線の反応感度は緑の9.0倍であった。また紫外線、緑LED刺激フリッカERGは共に30 Hz まで測定可能であった。薬物実験では、紫外線、緑LED刺激フラッシュERGのb波はL-AP4投与後消失し、a波はPDA投与後減弱し紫外線刺激で有意に減弱した (p=0.04)。さらに紫外線、緑LED刺激フリッカERGの振幅は5-15 HzでL-AP4投与後有意に減弱し (p<0.05, p<0.01)、PDA投与後、紫外線刺激では25, 30 Hz、緑刺激では10, 12.5, 15, 30 Hzで有意に振幅が減弱した (p<0.05)。 既報の通り紫外線の反応感度は緑のそれより高かった。薬物フリッカERGにおいて、紫外線、緑刺激双方において5-15 HzはON経路、30 HzはOFF経路有意であることが示された。一方低周波数での反応の違いから緑刺激ではOFF成分が、紫外線刺激ではON成分が有意である可能性が示され、これは既報の解剖学的結果と一致していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、検査システムの構築では、OFF反応を非侵襲的に検出する方法である網膜電図は完成し、現在Pure S coneの単離を行なっている。次に網膜内Necl-1の解析を進める。まず構造がシンプルな網膜外網状層 (OPL) を観察する。OPLにおけるシナプス部位は視細胞とON, OFF型双極細胞および水平細胞の樹状突起が複雑に絡み合っている。我々は、中枢神経に発現している細胞接着分子の一つであるNecl-1がマウス網膜のS錐体神経終末の細胞膜およびtype 4 OFF型双極細胞樹状突起に局在し、ノックアウト (KO) マウスで樹状突起の延長が見られることを見出した (ARVO, 2018)。次いで、我々は網膜電図を用いNecl-1の網膜内生理機能を解析した。8~12週齢マウス同腹のNecl-1 野生型 (WT) およびノックアウト (KO) を用いて、網膜電図 (ERG) を施行した。刺激光源は白色および紫外線LEDを使用し、測定条件は16時間以上暗順応後の杆体、明順応後の錐体およびフリッカ応答とした。杆体、錐体反応のa波, b波の振幅および潜時、OP波の振幅および潜時、5, 10, 12.5, 15, 25, 30 Hzフリッカ反応の振幅および潜時を比較解析した。杆体反応のa波、b波およびOP波の振幅および潜時、錐体反応のa波、b波の潜時および振幅も明らかな差はなかったが、白色、紫外線LED刺激双方において錐体反応のb波振幅がKOマウスにおいて大きい傾向を示した。さらに5-30 Hzフリッカ反応において白色光刺激では振幅および潜時に差はなかったが、紫外線刺激において全ての周波数でKOマウスにおいて振幅は小さく、潜時は遅延する傾向にあり、25, 30 Hzで有意に潜時が遅れていた。以上の解析から、Necl-1のシナプスにおける役割があることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
今後、接着分子NeclにGFPを繋げたEGFP-NeclマウスをCRISPR/CAS9(大阪大学医学部ゲノム編集室)にて作成し、EGFP-Neclマウスを用いたシナプトジェネシス観察を、これまで開発してきたOFF反応解析網膜電図と二光子励起顕微鏡による乳頭観察法を網膜内層(IPL層)に応用し、生体におけるシナプス再形成(シナプトジェネシス)の経時的形態変化を観察し、その病態に関与する分子機構(IgG superfamilyと)を解明する
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の進捗から、共同研究者の旅費への支出がなかったため、翌年に繰越となった。
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