眼球深部の生体観察は極めて困難であり、未だ病態解明の大きな障壁となっている。この障壁を克服するために、非侵襲的な高空間分解能を持つ多光子励起顕微鏡を用いた生体眼球深部組織観察系の確立を目指し、独自の手法で長年試行錯誤を繰り返した末、ようやく解析可能なレベルに到達することが出来た。当初は視神経のライブイメージングを強膜側からアプローチすることを試み、生体画像を得ることに成功したが、糸を用いて眼球を回旋し視神経を露出させていたため、牽引による侵襲が問題であった。この問題を克服するために、角膜側から経瞳孔的にアプローチする方法を試みた。瞳孔を介して多光子励起顕微鏡で網膜を観察するためには収差を補償するための複雑な光学系を用いる必要があったが、近年の新たな光学系の技術進歩により、特殊なコンタクトレンズを用いて鮮明な網膜血管画像を生体で取得することに成功した。さらに、Brainbow法を用いたマウスの眼深部撮影を試み、網膜を構成する神経細胞を異なる複数の蛍光タンパクで標識した3次元網膜画像を取得することに成功し、個々の単一神経細胞やグリア細胞からなる網膜の立体構造を鮮明に把握することが可能となった。
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