研究課題/領域番号 |
18K09422
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小澤 洋子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (90265885)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 網膜 / 神経保護 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
国内の失明原因の第3位であり、人口の4000-8000人に1人という高率に生じる遺伝性神経変性疾患である網膜色素変性には、現時点で有効な治療法が世界的に無い。従来、網膜は検体採取が困難であることから、病態研究は困難であったことが一因である。しかし、申請者は遺伝子変異を持つ患者体細胞からiPS細胞を樹立し、分化誘導により網膜細胞を培養し解析する疾患iPS研究を行い、網膜色素変性に対する小胞体ストレスを標的とした神経保護治療の可能性を提案した(Yoshida, Ozawa, Okano et al. Mol. Brain 2014)。疾患iPS研究は、in vitroの実験であり、次に目標とされるのは、in vivoにおける効果の解析である。そこで、本研究では、次の段階として生体内での失明予防効果を解析することで将来の新規治療法の開発、すなわち臨床応用につなげる。そこで本研究ではこれを発展させ、網膜色素変性モデルマウスにおける神経保護治療の効果の解析を行っている。そのため、ロドプシン変異遺伝子であるP23Hのノックインマウス(Sakami, Palczewski et al.Hum Mol Genet.2014]を用いて、小胞体ストレス抑制効果を持つ薬剤による治療介入を行い、その機能的および組織学的予後の解析を行っている。申請者のこれまでのiPSテクノロジーを用いた研究を発展させ、将来のヒト臨床試験、新規神経保護治療法の開発につなげる解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロドプシン変異遺伝子であるP23Hのノックインマウス(Sakami, Palczewski et al.Hum Mol Genet.2014]を用いて、小胞体ストレス抑制効果を持つ薬剤による数か月に及ぶ継続的治療介入を行い、その機能的および組織学的予後の解析を行ったところ、確かに生体内で視機能保護効果を持つことが明らかに示された。また、組織学的に変性抑制効果を持つ可能性が示された。これは、iPS細胞を用いて、数々の薬剤の中から絞り込んだものを用いたことから準備が整った状態で研究を開始できたことが、理由であったと考えられる。このように、これまでのiPSテクノロジーを用いた研究を発展させ、将来のヒト臨床試験、新規神経保護治療法の開発につなげる解析の第一歩であった。そして培養である疾患iPS研究で解明された内容を発展させ、モデルマウスを用いた生体における効果の解析をすることで、将来の創薬に結び付けるという学術的独自性と創造性を示すモデルケースとしての成功への第一歩であるともいえた。
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今後の研究の推進方策 |
ロドプシン変異遺伝子であるP23Hのノックインマウス(Sakami, Palczewski et al.Hum Mol Genet.2014]を用いて、小胞体ストレス抑制効果を持つ薬剤による数か月に及ぶ継続的治療介入を行い、その組織学的予後の解析をさらに進め、明らかな神経保護効果が見られるかを解析する。また、その結果によらず、機能的には効果があることは既に明らかであるため、その効果の分子メカニズムを解析する。元来、本薬剤は小胞体ストレスを解消することを目的に選択されたことから、小胞体ストレスマーカーを中心に解析する。そのために組織学的のみならずリアルタイムRT-PCRやイムノブロット法といった分子生物学的解析および生化学的解析を進める。殊に、変性が明らかになる以前の時期の網膜内分子解析を中心に行うこととする。これにより申請者のこれまでのiPSテクノロジーを用いた研究を発展させ、将来のヒト臨床試験、新規神経保護治療法の開発につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用するマウスの週齢を合わせる必要があり、同時に多くの同週齢マウスを飼育・準備するために時間調整が必要となったため、本年度使用するはずであった使用学の一部を次年度使用することとした。この金額は、翌年度分として請求した助成金と合わせて、解析に用いるモデルマウスの飼育および組織解析に用いる抗体等の購入のために用いる予定である。
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