前回の報告ではSRT2104により視神経のSIRT1が上昇し、下流のオートファジーが活性化したことを報告した。今回はnitocinamide riboside (NR)によりSIRT1が上昇したことに関連して報告する。もともとnicotinamide adenine dinucleotide (NAD)の視神経軸索保護効果は発表しており、その上流の変換酵素であるnmnatを強制発現することでのオートファジーを介しての軸索保護も報告していたが、さらに上流にはnicotinamide riboside kinase1 (NRK1)という酵素が存在する。今回NRを硝子体内投与することにより視神経のSIRT1上昇とオートファジーフラックスの上昇を確認し、軸索保護効果をTNF誘発視神経障害モデルで確認した。視神経のオートファジーフラックス上昇はLC3-II上昇とp62/SQSTM1の減少で確認している。NRK1はNRをnicotinamide mononucleotide(NMN)に変換するが、予想外にNR投与により内因性のNRK1が有意に視神経で上昇した。次にその所在を調べると、網膜では神経線維層と網膜神経節細胞に、視神経では視神経軸索に存在していた。つまり外因性NR投与により内因性NRK1が上昇し、NMNへの変換も上昇、そして下流のNAD合成も上昇、その後SIRT1上昇がおこり、オートファジー上昇という経路が考えられた。NRK1の網膜及び視神経での報告は初めてであり、またNR自体は米国ではヒトでも安全に投与されていることから、これらの所見は本邦での緑内障を含む視神経障害への新しい治療戦略に寄与することが期待できる。
|