研究課題
当該研究年度においては、本研究課題において初年度に実施したヒトとマウスの涙腺組織の加齢変化に関する組織病理学的検索のなかで見出した、「加齢涙腺ではリンパ球浸潤を中心とした軽度の慢性炎症状態が生じていること」と、「加齢涙腺では涙腺上皮細胞に細胞増殖が生じていること」に関して、種々の自己免疫疾患モデルとなり、涙腺においても顕著なリンパ球浸潤を伴う炎症を呈するPD-1欠損マウス(Pdcd1-/-マウス)を用いてさらに検索を進めた。PD-1は抑制性の免疫補助受容体であり、そのモノクローナル抗体は抗がん剤ニボルマブ(Nivolumab)として臨床で使用されている。Pdcd1-/-マウス涙腺の観察の結果、生後3-4ヶ月齢からリンパ球浸潤を伴う涙腺炎がみられ、さらに、そこに浸潤するリンパ球の中からCD4陽性T細胞を取り出して、放射線照射により骨髄抑制状態にした野生型マウスに移植したところ、そのレシピエントマウスに涙腺炎が生じたことから、ニボルマブの副作用としても知られる自己免疫性涙腺炎のメカニズムを反映しているものと思われた。また、Pdcd1-/-マウスの涙腺炎は加齢によって劇的に悪化し、加齢に伴う涙腺機能の低下の原因の一つが涙腺組織の炎症にあるころが改めて裏付けられた。さらに、初年度に確認された加齢涙腺の組織病理学的特徴であるハーダー腺化と呼ばれる組織構築の変化もPdcd1-/-マウスでは野生型マウスよりも半年以上も早く生じていたことから、Pdcd1-/-マウスは涙腺早期加齢モデルとも言えるものと考えられた。一方、このマウスの涙腺で増殖細胞の指標であるKi67の免疫組織化学染色を実施したところ、陽性細胞は浸潤細胞ばかりで、涙腺上皮に細胞増殖はみられなかったことから、加齢涙腺にも残存しているであろう組織幹細胞は局所の炎症だけでは必ずしも賦活化されないということが示唆された。
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