研究課題/領域番号 |
18K09432
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
岡本 晶子 (須賀) 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), 分子細胞生物学研究部, 研究員 (70450400)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遺伝性網膜疾患 / 網膜 / シナプス / ノックインマウス / ゲノム編集 / 分子生物学 |
研究実績の概要 |
本研究は、優性遺伝性黄斑変性の日本人家系から同定した新規原因遺伝子LRRTM4の変異について、変異マウスの病態と変異タンパク質の機能的変化を検討するものである。変異モデルマウスを用いた昨年度の検討では、患者と同様に片アレルのみに変異を持つマウス(KIヘテロ)では対照群と比較して光照射後に死細胞の変性が見られる個体が多かったが、通常飼育条件では差が見られなかった。ヒトとマウスの網膜の構造的な違い、特に錐体視細胞の分布と密度の違いが患者病態とモデルマウスの表現型の違いに影響している可能性を考え、より変異体の影響が大きいと考えられる両アレルに変異を持つマウス(KIホモ)を交配により作成し、網膜構造と網膜細胞の応答変化について網膜断層像と網膜電図を用いて経時的に検討した。in vitroの解析では、昨年度に作成したアイソフォーム特異的抗体を利用し、野生型と変異体コンストラクトのタンパク質発現と細胞内局在を検討した。 In vivoの検討では、KIホモマウスは野生型、KIヘテロマウスに対して錐体視細胞の応答が低い傾向が得られたため、数を増やして実験継続中である。In vitroの検討では、培養細胞に強制発現させた場合に、糖鎖修飾を受けた成熟型タンパク質の量が野生型に比べて変異体では優位に少ないことが示された。LRRTM4はシナプス形成を促進することがよく知られており、成熟型タンパク質の減少は視細胞-双極細胞間のシナプス形成に影響すると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
KIヘテロマウスは、通常飼育条件下1年齢で表現型を確認したものの、OCTによる網膜断層像とERGによる網膜電図に野生型との明らかな差は見られなかった。また網膜組織切片の染色でも明らかな差は見られなかった。光障害実験では、KIヘテロ変異体の方が野生型よりも光によって視細胞が変性する頻度が高い傾向が得られたものの、統計的に有意とは言えなかった。そこでKIホモマウスの表現型を検討することに方針を変更し、通常飼育下での野生型との違いをまず検討したところ、錐体視細胞の応答について野生型と変異体の間に差がある傾向が見られた。In vitroの実験では、実験に用いるコンストラクトを見直した結果、強制発現タンパク質を標識するタグの種類および挿入部位を再検討することで、実験結果のばらつきを抑えることができた。今後新規コンストラクトを用いて検討予定の細胞内局在、N末側ドメインの細胞外分泌、免疫沈降、細胞膜局在タンパク質の分画について実験系は確立されており、実験を速やかに進められると予想される。
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今後の研究の推進方策 |
In vivoの実験では、KIホモマウスの数を増やし、見られた野生型とKIホモマウスの差の傾向について統計的に有意なデータかどうかを検討する。またKIホモマウスでのLRRTM4発現量と網膜での発現パターンについて、特にタンパク質のC末側領域に注目して野生型と変異型を比較する。ここには本研究で作製したアイソフォーム特異的抗体を用いるとともに、錐体視細胞、双極細胞のシナプスマーカーの発現を確認する。In vitroの実験では、糖鎖修飾された成熟型タンパク質の発現量に加えて、昨年度の検討で確認したN末側断片の分泌と細胞膜への局在について、それぞれ野生型と変異体に差があるかどうかを検討する。さらにLRRTM4細胞内ドメインのタンパク質-タンパク質相互作用について、新規コンストラクトを用いて免疫沈降実験による検討を行う。翻訳後修飾によりC末型領域のみの断片が生じることを予想し、成熟型タンパク質のN末側に付加したタグに対する抗体だけでなく、C末型を認識する抗体でも免疫沈降を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた光障害システムの購入を延期し、動物の繁殖と分子生物学的な実験に振り当てたたため、差額が生じ次年度使用額が生じた。本研究ではタンパク質-タンパク質相互作用の検討において質量分析を用いたタンパク質の同定を外注する予定であり、その費用に充てる。
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