研究課題/領域番号 |
18K09432
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
岡本 晶子 (須賀) 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), 分子細胞生物学研究部, 研究員 (70450400)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遺伝性網膜疾患 / 網膜 / ゲノム編集 / ノックインマウス / シナプス |
研究実績の概要 |
本研究は、顕性遺伝を示す黄斑変性の日本人家系から全エクソン配列解析によって同定した新規原因遺伝子候補LRRTM4 C538Y変異について、変異ノックインマウスの病態と変異タンパク質の機能的変化を検討するものである。これまでにin vitroでのタンパク質発現量及び局在の解析、C538Y変異ノックインマウスの表現型の解析を行った。In vitroでは、LRRTM4 C538Y変異タンパク質は野生型と比較すると細胞内小器官のゴルジ体に強く局在が見られる事、N末端のシグナルペプチドが切断された成熟型と考えられるタンパク質の量が少ないことが示された。LRRTM4がシナプスに局在する膜タンパクであることから、C538Y変異によって膜に局在するLRRTM4タンパク質量が減っていると予想された。しかしながら、C538Y変異ノックインマウスの表現型を検討したところ、野生型に対して変異ヘテロマウス、変異ホモマウスどちらも網膜層構造、視細胞の電気生理的な反応の大きな差は見られず、マウスにおいてはこの変異のみではヒト患者で見られるような10代からの顕著な黄斑変性と双極細胞の応答低下は確認できなかった。本変異を疾患原因候補とする過程では、公開データでの変異頻度およびin-houseデータで健常者には見られない希少変異であることを確認し、またシナプス後膜に局在する神経機能に影響する可能性の高い分子であることを参考にした。しかしマウスでヒトに類似する表現型が確認できない点から、本変異以外に黄斑変性の原因となる遺伝的変化がエクソン外領域に存在する可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Lrrtm4 C538Yノックインマウス表現型の検討と、in vitroでのLRRTM4野生型タンパク質とC538Y変異体の比較を並行して行った。昨年度までの報告のとおり、ノックインヘテロマウスと野生型の間では網膜層構造、網膜細胞の数について統計的に有意な差は見られなかったため、ノックインホモマウス(C538Yホモ)を作製し、生後1年齢までの網膜層構造、網膜電図による視細胞・双極細胞の電気生理的機能を検討したが、いずれも野生型とC538Yホモの間で顕著な差は見られず、むしろ加齢によると考えられる白内障など個体間のばらつきが大きかった。In vitroの検討では、N末端にHAタグをつけたコンストラクトを用いて野生型とC538Y変異体を比較した結果、C538Yはゴルジ体に凝集する事、シグナルペプチドが切られた成熟型と予想されるタンパク質の量が野生型と比べて少ないことが示された。またC538Y変異をコードする塩基配列の変化(LRRTM4 c.1613g>a)がエクソン性スプライシングエンハンサーを破壊すること、この塩基配列が脊椎動物間で保存されていることから、同様の塩基配列の置換をもつC538YマウスでLrrtm4 mRNAのスプライシングが影響されていないかをRT-PCRで検討したが、スプライシングパターンの変化は見られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
LRRTM4 C538Y変異は顕性遺伝性黄斑変性の患者および健常家族の全エクソン配列解析(WES)によって、希少かつ患者と健常者で分離する変異であり、疾患原因になる可能性が最も高い変異として同定した。In vitroの比較ではLRRTM4野生型とC538Y変異体の間に細胞内局在、成熟型タンパク質の量比に違いが見られているものの、Lrrtm4 C538Yノックインマウスは生後1年以上経過しても顕著な網膜変性は見られず、網膜電図で取得した視細胞及び双極細胞の反応も正常マウスに比べて低下は見られなかった。そのため、LRRTM4 C538Y変異に加えて、WESでは読まれないエクソン外の領域に黄斑変性の原因となる変異が存在する可能性を考え、患者及び健常者の全ゲノム配列解析を行う。まず既知の黄斑変性原因遺伝子の発現制御領域・イントロン内で、患者‐健常者で分離される発現制御・スプライシングに影響する可能性の高い変異を抽出し、プロモーター活性、スプライシングへの影響を実験的に確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスによる移動制限により、国際学会への参加ができなかったため。また当初予定していたタンパク質‐タンパク質相互作用の解析よりも、患者検体の全ゲノム配列解析を行い、解析中の変異の他に表現型を説明する二重変異があるかどうかを確認することが重要と考えられたため、全ゲノム配列解析とその結果の確認用のために研究期間を延長して研究費を次年度使用に回した。
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