本研究は、顕性遺伝を示す黄斑変性の日本人家系から全エクソーム解析によって同定した新規原因遺伝子候補LRRTM4のC538Y変異について、in vitroでの変異タンパク質の機能解析と変異ノックインマウスの病態形跡を行い、網膜変性の分子病態を明らかにする目的で行った。LRRTM4は一回膜貫通型のシナプスタンパク質であり、視細胞と双極細胞のシナプス結合に関わると予想された。本変異はLRRTM4タンパク質のlong isoform特異的なC末端部位にあったため、網膜組織でisoform特異的に発現細胞を検出する目的でlong isoform特異的抗体を作成した。本抗体はin vitroではlong isoform特異的に認識したが、マウス網膜サンプルでは標的タンパク特異性が低くin vivoでの検討には用いられなかった。In vitroの解析では、C538Y変異体は野生型と比較してゴルジ体に凝集する傾向が見られた。また、N末端のシグナルペプチドが切断された成熟型タンパク質の量が少なくなる傾向が見られた。しかし、細胞膜と細胞質を分離して検討した結果、細胞膜でのLRRTM4タンパク質の局在量は野生型と変異体に有意な差はなかった。一方で、C538Y変異を持つマウスでは生後1年以上経過しても顕著な網膜変性は見られず、網膜電図も野生型マウスと変異体マウスで有意な差は見られなかった。本結果から、最初に同定したLRRTM4のアミノ酸置換の他にエクソン外領域の変異が発症に寄与する可能性を考え、全ゲノム解析を行った結果、患者検体から網膜で発現する遺伝子の構造変異を検出した。本遺伝子の組織特異的ヘテロ欠損マウスは網膜変性を示すことが報告されており、患者の表現型と矛盾しないと考えられた。
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