研究課題/領域番号 |
18K09439
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
山下 英俊 山形大学, 医学部, 教授 (90158163)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 糖尿病網膜症 / 脈路膜厚 / 遺伝子変異 / 日本人正常値 / 舟形町研究 |
研究実績の概要 |
糖尿病網膜症は高血糖により網膜血管が傷害され、血管透過性亢進、血管閉塞、新生血管の発症と病態が進行し視機能低下をきたす疾患である。近年、糖尿病網膜症の眼では網膜のみならず脈絡膜の循環障害も来していることや、脈絡膜厚が変化していることが報告されている。本研究では糖尿病網膜症と脈絡膜病態の関連を解析することを目的としている。糖尿病患者ではがん罹患率が上昇することが報告されているが、がんと糖尿病網膜症や脈絡膜厚の関連についてはまだ明らかとなっていない。今回我々は糖尿病患者においてがん合併の有無で脈絡膜厚に差があるかについて検討を行なった。 対象は糖尿病と診断されており、当院眼科を受診した21例42眼のうち、黄斑変性や黄斑上膜を認めない21例39眼(男性16例30眼、女性5例9眼)とした。対象症例の中で、がんを合併する10例20眼とがんを合併しない10例19眼を比較した。 がんを合併する症例はNDR 16眼、moderate NPDR 4眼、中心窩網膜厚の平均値は233.75μm、中心窩下脈絡膜厚の平均値は199.4μmだった。糖尿病網膜症の状態と網膜厚・脈絡膜厚の間に関連はみられなかった。がんを合併しない症例はNDR 15眼、moderate NPDR 4眼、中心窩網膜厚の平均値は231.2μm、中心窩下脈絡膜厚の平均値は191.8μmだった。糖尿病網膜症の状態と網膜厚・脈絡膜厚の間に関連はみられなかった。がん合併の有無で平均中心窩網膜厚、平均脈絡膜厚に有意差はなかった。対照群として当院眼科を受診し、糖尿病及び眼底疾患を有しない症例(5例10眼)の平均中心窩網膜厚、脈絡膜厚を加えた3群間で比較したが、有意差はなかった。脈絡膜厚のばらつきについて、糖尿病+がん合併あり群と糖尿病なし群では有意に前者がばらつきが大きかった。糖尿病+がん合併あり群と糖尿病がん合併なし群、糖尿病+がん合併なし群と糖尿病なし群ではばらつきに有意差はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究:対象は糖尿病と診断されており、当院眼科を受診した21例42眼のうち、黄斑変性や黄斑上膜を認めない21例39眼(男性16例30眼、女性5例9眼)とした。対象症例の中で、がんを合併する10例20眼とがんを合併しない10例19眼を比較した。 がんを合併する症例はNDR 16眼、moderate NPDR 4眼、中心窩網膜厚の平均値は233.75μm、中心窩下脈絡膜厚の平均値は199.4μmだった。糖尿病網膜症の状態と網膜厚・脈絡膜厚の間に関連はみられなかった。がんを合併しない症例はNDR 15眼、moderate NPDR 4眼、中心窩網膜厚の平均値は231.2μm、中心窩下脈絡膜厚の平均値は191.8μmだった。糖尿病網膜症の状態と網膜厚・脈絡膜厚の間に関連はみられなかった。がん合併の有無で平均中心窩網膜厚、平均脈絡膜厚に有意差はなかった。対照群として当院眼科を受診し、糖尿病及び眼底疾患を有しない症例(5例10眼)の平均中心窩網膜厚、脈絡膜厚を加えた3群間で比較したが、有意差はなかった。脈絡膜厚のばらつきについて、糖尿病+がん合併あり群と糖尿病なし群では有意に前者がばらつきが大きかった。糖尿病+がん合併あり群と糖尿病がん合併なし群、糖尿病+がん合併なし群と糖尿病なし群ではばらつきに有意差はなかった。 本年の研究から、糖尿病患者の眼において、脈絡膜厚のばらつきが対照(糖尿病なし患者)に比較して有意に大きくなっていた。本年度の糖尿病患者の網膜症は軽症、中等症までであったことから、網膜症進展に平行して脈絡膜循環にも異常が発生していることが判明し、これは新しい知見であった。 以上から、おおむね順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
糖尿病網膜症の病態に関与する脈絡膜病態の意義を明らかにし、さらにこの病態に関与する新しい分子ターゲットを明らかにし、創薬の戦略を構築する。 ①糖尿病患者眼:山形大学医学部附属病院眼科糖尿病網膜症外来において、糖尿病網膜症・黄斑症、脈絡膜の病態を、眼底写真、蛍光眼底写真、OCTにより観察しデータとして蓄積する。糖尿病患者におけるデータを2018年度の症例数の上乗せを目指す。対照として糖尿病り患の見られない患者とする ②糖尿病患者で網膜病態、脈絡膜病態の解析 上記①および②で蓄積したデータを用いて、網膜および脈絡膜病態の関連を検討する。とくに、脈絡膜厚のばらつきがどのタイミングでおおきくなるのか、網膜症発症・進展予測を評価するリスク因子として有用かどうかを検討する。 ③炎症の分子メカニズムに関連する因子の検証と創薬ターゲット検討する。特にステロイドの眼局所治療法、そのなかでも点眼による新しい治療法の有用性、安全性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、糖尿病網膜症の病態に関与する脈絡膜病態の意義を明らかにし、さらにこの病態に関与する新しい分子ターゲットを明らかにし、創薬の戦略を構築する計画を立てた。すなわち、①網膜と脈絡膜の正常値の設定、②糖尿病患者眼としては山形大学医学部附属病院眼科糖尿病網膜症外来において、糖尿病網膜症・黄斑症、脈絡膜の病態を、眼底写真、蛍光眼底写真、OCTにより観察しデータとして蓄積する。糖尿病患者におけるデータを2018年度の症例数の上乗せを目指す、③糖尿病患者で網膜病態、脈絡膜病態の解析、上記①および②で蓄積したデータを用いて、網膜および脈絡膜病態の関連、それに関連する遺伝子多型について統計学的に検討する、④炎症の分子メカニズムに関連する因子の検証と創薬ターゲット検討する。特にステロイドの眼局所治療法を検討する。この4点である。 このうち、①、➁、③及び④の一部、計画通りに研究を推進できた。ステロイド眼局所治療としての点眼治療の効果は短期間での観察は可能であったが、長期観察は2020年度に引き続き行うことになった。この部分を遂行するために2020年度に研究費使用となった。2020年度使用計画としては、ステロイド眼局所治療としての点眼治療の高地観察のためのデータベースを構築し、データを集積するために費用を用いる。
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