研究課題/領域番号 |
18K09446
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川崎 諭 大阪大学, 医学系研究科, 特任准教授(常勤) (60347458)
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研究分担者 |
辻川 元一 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (70419472)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膠様滴状角膜ジストロフィ / クローディン |
研究実績の概要 |
膠様滴状角膜ジストロフィ(GDLD)は、タイトジャンクション構成タンパクであるクローディン(CLDN)1および7タンパクの細胞膜への移行障害とそれに伴う分解 亢進が生じ、最終的に角膜上皮バリア機能が低下して涙液中のラクトフェリンが角膜組織に浸透してアミロイド形成することが原因と考えられている。しかし TACSTD2の遺伝子変異からこの分子病態に至る詳細な分子メカニズムについては未だ明らかでない。本プロジェクトでは、「TACSTD2がCLDN1および7に結合するこ とでそれらのオリゴマー形成を適正な状態に制御しており、一方でGDLDではTACSTD2が機能しないためにCLDN1および7のオリゴマー形成が過剰となって凝集塊を 形成し、結果不良タンパクと認識されてオートファジーなどによって分解される」という仮説のもとGDLDの詳細な分子病態を探索する。 平成30年度にGDLDのモデル細胞として、不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T細胞)からGDLDの責任遺伝子であるTACSTD2とそのパラログ遺伝 子であるEpCAM遺伝子をダブルノックアウトした細胞(Double Knock-out 細胞:DKO細胞)を作製した。 本細胞を用いて、CLDN1および7のオリゴマー形成について検討するとともに、これまで病態が不明であったミスセンス変異によるGDLD発症のメカニズムについても迫れる可能性がある。予備検討段階ではあるが、ミスセンス変異によってTACSTD2は細胞膜に局在することができないことが分かった。またグリコシレーションについても異常となっており、恐らくミスセンス変異によって小胞体内でフォールディングエラーを来して分解されることで機能喪失に至るものと推測している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はHeLa細胞にCLDN1および7遺伝子を強制導入し、テトラサイクリン誘導下にTACSTD2遺伝子を発現するGDLDのモデル細胞を構築した。テトラサイクリン添加によってTACSTD2遺伝子の発現を誘導するとCLDN1およびCLDN7タンパクが細胞内部の核周囲から細胞膜へと移動することが観察され、TACSTD2タンパクの有無がCLDN1および7の局在に影響することが確認された。また細胞内部に局在するCLDN1および7タンパクは凝集体の様相を示し、我々の仮説に沿ったエビデンスとなった。このGDLD病態モデル細胞を用いて、TACSTD2タンパクの存在の有無によってCLDN7タンパクの状態がどのように変化するかについてBlue Native PAGEを用いて検討したところ、CLDN7タンパクはTACSTD2タンパクが存在しない状況では高分子域に泳動され、TACSTD2タンパクが存在しない状況では低分子域に泳動された。このことはTACSTD2タンパクが存在しない状況ではCLDN7が多量体を形成していることを示唆し、我々の仮説を支持することとなった。また我々はGDLDのモデル細胞として、不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T細胞)からGDLDの責任遺伝子であるTACSTD2とそのパラログ遺伝子であるEpCAM遺伝子をダブルノックアウトした細胞を作製した。この細胞はGDLDにおけるCLDN1および7の局在、発現とほぼ同じ表現型を示した。さらにこの細胞をもちいて、ミスセンス変異によるGDLD発症のメカニズムについても検討した。ミスセンス変異によってTACSTD2は本来局在すべき細胞膜に局在せず、またグリコシレーションについても異常なパターンを示した。恐らくミスセンス変異によって小胞体内でフォールディングエラーを来して分解される(ERAD)ことで機能喪失に至り発症するものと推測している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の展開としては、CLDN7タンパクがどのようなメカニズムで凝集隊を形成するのかについて検討し、さらにどのような経路で分解されるかについて検討することとする。ミスセンス変異をもつTACSTD2遺伝子の強制導入実験にて、TACSTD2タンパクが小胞体内部においてフォールディングエラーを生じ、ERAD(Endoplasmic Reticulum-Associated Degradation)の経路によって分解される可能性が示唆された。これまでミスセンス変異におけるGDLDの分子病態は明らかにされておらず、ミスセンス部位を含む機能ドメインに結合する因子との相互作用の強度が変化することで機能喪失に至ると推測されていたが、本研究の結果から全く異なる病態が示唆された。これについても検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
可能な範囲で国産の安価な試薬等を選択することで次年度使用額が生じた。次年度にも同様に可能な範囲で国産の安価な試薬等を選択することとするが、抗体などの研究履行上重要な実験ツールについては、高価であっても性能を重視して選択する。そのための費用として利用する予定である。
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