研究課題/領域番号 |
18K09456
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
井上 真 杏林大学, 医学部, 教授 (20232556)
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研究分担者 |
伊東 裕二 杏林大学, 医学部, 講師 (00625569)
慶野 博 杏林大学, 医学部, 准教授 (90328211)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 眼底自発蛍光 / 黄斑円孔 / 黄斑前膜 / 黄斑色素 / リポフスチン |
研究実績の概要 |
眼底自発蛍光は主にリポフスチンという視細胞の代謝産物から発せられると考えられている。黄斑疾患において眼底自発蛍光の役割の研究が行われているが、黄斑部が持つ黄斑色素が青色光による自発蛍光をブロックするため黄斑疾患における機能評価が困難であった。そこで緑色光を利用した自発蛍光を用いることで、より正確な黄斑機能評価ができるかを黄斑疾患に対する手術を行った症例で検討する。本研究では、黄斑前膜、黄斑円孔、分層黄斑円孔、黄斑牽引症候群等の黄斑疾患で青色光と緑色光の眼底自発蛍光を撮像して比較する。視神経乳頭上はリポフスチンが存在せず自発蛍光がないと考えられ、今回の研究では黄斑部の自発蛍光を視神経乳頭上の自発蛍光の輝度と比較することで定量的な評価を行う。 並行して摘出眼球における組織切片での蛍光部位の同定に関する実験と培養細胞による実験を行う。Human Eye Biobankから提供された、黄斑前膜、黄斑円孔を有する患者の病理切片での自発蛍光を蛍光顕微鏡で観察して、年齢をマッチさせたコントロールと比較する。培養網膜色素上皮細胞では網膜色素上皮細胞のみの自発蛍光しか観察されないが、摘出眼球であると経年的変化や黄斑前膜や黄斑円孔による感覚網膜の変化、更には視細胞外層の変化による波長の異なる自発蛍光の変化を観察できるという利点がある。 市販ヒト網膜色素上皮細胞株(ARPE-19、ATCC社)を用いる。細胞のリボゾーム内のリポフスチン顆粒はSudan black B染色、および蛍光顕微鏡、AGE (Advanced Glycation End Products)は抗AGE抗体による免疫染色で確認する。蛍光顕微鏡の励起光の中の青色光(Blue励起)、緑色光(Green励起)を用いて細胞内の蛍光物質の局在がリポフスチン顆粒と一致するかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年間で黄斑前膜、黄斑円孔、分層黄斑円孔、黄斑牽引症候群等の黄斑疾患の硝子体手術前後で青色と緑色眼底自発蛍光を撮像した症例収集を行った。その間に黄斑円孔の症例に関しては黄斑分層円孔にみられるlamellar hole associated epiretinal proliferation (LHEP)と同等の組織が黄斑円孔の症例に見られLHEPの有無で黄斑円孔の臨床所見に特徴があるか、また術後成績に違いがあるかを検討した。LHEP様の所見があった方がより近視眼で眼軸も長く中心窩近傍に網膜の分裂を伴う、黄斑前膜の合併も多かった。術後成績ではLHEPがあった方がより術前視力が良好であったのに比べて術後視力はLHEPの有無で差が無かった。一方で黄斑円孔の術後視力と相関すると報告されている光干渉断層計での視細胞外節のEllipsoid zone lineの欠損幅はLHEP様組織があった方が有意に長かった。そこでLHEP様組織は視細胞に対して黄斑円孔の術後に保護的な役割を持っているのではと推測した。LHEP様の組織は黄斑分層円孔だけではなく黄斑円孔にも見られるためにMacular dehiscence-associated epiretinal proliferationと呼ぶ概念を推奨した(Takahashi H, et al. Retina 2018)。 別の報告として難治性黄斑円孔に対するretracting door techniqueという術式で術中OCTを用いて翻転した内境界膜の位置をコントロールする変法を報告した(Kubo S, et al. J VitreoRet Dis 2018)。黄斑円孔の手術中の所見として内境界膜を翻転した後に術中OCTで確認するとフラグメントがみられることがある。フラグメントの有無と臨床所見、手術成績との相関についての報告を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、黄斑前膜、黄斑円孔、分層黄斑円孔、黄斑牽引症候群等の黄斑疾患で青色光と緑色光の眼底自発蛍光を撮像して比較する。これらの疾患で硝子体手術を行った症例に対して青色の眼底自発蛍光はHeidelberg社製SpectralisのHRA2を用いて撮像し、緑色の眼底自発蛍光はOptos社製超広角眼底撮影装置Optosのリゾマックスモードで撮像した。それぞれ術前、術1か月後、3か月後、6か月後でOCTと共に撮像を行った。視神経乳頭上はリポフスチンが存在せず自発蛍光がないと考えられ、同一画面上で黄斑部と視神経乳頭が観察されている。今回の研究では黄斑部の自発蛍光を視神経乳頭上の自発蛍光の輝度と比較することで定量的な評価を予定している。術前後の視力変化だけではなく、OCTのパラメーターであるEllipsoid zoneラインやInterdigitation zoneラインの欠損幅との比較を行う。検討に必要な症例数に達したと考えられ今後は解析を行っていく予定である。 Human Eye Biobankを主催しているトロント大学眼科病理学のYeni Yucel教授と打ち合わせを行い黄斑前膜、黄斑円孔とエイジマッチした症例の切片を収集してもらっている。症例の収集後に切片を発送してもらい蛍光顕微鏡で観察を行う予定である。また同時にリポフスチンと蛍光発生部位との相関を見るため免疫染色での検討も行う。培養細胞での実験はこれらの研究で得られた結果を元にするため、その後に予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、一部他の経費でまかなうことができ未使用額が生じた。来年度は病理切片の研究においてヒト組織の蛍光顕微鏡実験を行う予定である。また、症例の画像データの解析も実施するため、未使用額は上記の研究に必要な消耗品の購入にあてる。他に、情報収集や関連疾患の研究を行っている研究者との情報交換や討論を行うための学会出席費にもあてる。
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