研究実績の概要 |
神経ペプチドPACAP (Pituitary Adenylate Cyclase-Activating Polypeptide:下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド)の角膜上皮創傷治癒促進作用メカニズムの解明を目的に、創傷治癒関与因子をDNAマイクロアレイ解析により同定することを目指した。 今年度はマイクロアレイ解析よりPACAPによる角膜外皮創傷治癒効果に関与する因子として昨年度に選定されたNr4a1 (nuclear receptor subfamily 4, group A, member 1)についての検討を行った。まずPACAP受容体PAC1r、VPAC1r、VPAC2rのアンタゴニストを使用したウェスタンブロッティングの結果、VIP6-28(VPAC1R とVPAC2R のアンタゴニスト)ではNR4A1発現に影響はなかったが、PA8(PAC1rのアンタゴニスト)の存在下ではNR4A1発現が抑制されることからNR4A1が主にPAC1rを介して機能している可能性が高いことが分かった。さらにNR4A1の阻害剤であるTHPNを使用した場合、PACAPによる細胞増殖作用の阻害がEdU細胞増殖アッセイにより確認され、スクラッチアッセイによる創傷治癒効果も抑制されることが明らかになった。 これらの結果を受け、PACAPのNR4A1への作用を検討するためにNR4A1のリン酸化や局在性への影響を検討したところ、スクラッチによる損傷が核内NR4A1リン酸化を促進するが、PACAPが核内NR4A1のリン酸化を抑制(脱リン酸化作用)する可能性が示された。NR4A1のリン酸化は転写活性を失い、核外移行による細胞死促進が報告されている。よってこれらの結果からPACAPはNR4A1の核外移動を抑制し転写活性を維持することで細胞生存や創傷治癒に貢献することが示唆された。
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