研究課題/領域番号 |
18K09465
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
池田 恒彦 大阪医科大学, 医学部, 教授 (70222891)
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研究分担者 |
奥 英弘 大阪医科大学, 医学部, 准教授 (90177163)
喜田 照代 大阪医科大学, 医学部, 講師 (90610105)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中心窩 / ミュラー細胞 / 神経幹細胞 / Muller cell cone / radial glia / GFAP / Nestin |
研究実績の概要 |
近年,中枢神経系にも幹細胞が存在し, 成体でも持続的にニューロンが新生されることが報告され再生医療の面からも注目されている。成体脳の中でニューロンの新生が起こるのは、海馬の顆粒細胞下帯と脳室下帯である。中枢神経の一つである感覚網膜においても網膜と毛様体の境界部いわゆるciliary marginal zone(CMZ) には神経細胞,グリア細胞,視細胞への分化能を有する網膜幹細胞が存在し,成体となっても再生していることが報告されている。また角膜も結膜との境界部である角膜輪部に幹細胞が存在し, オキューラーサーフェスの構造および機能維持に関与していることが報告されている。幹細胞はこのようなCMZや角膜輪部などの組織の境界部以外に,小腸の陰窩(crypt), 毛胞, 皮膚の真皮などのように陥凹した部位にも存在し,また骨髄幹細胞のendosteal nicheのように低酸素部位に存在することが多いことが知られている。筆者らは, 陥凹して低酸素状態にあるという幹細胞ニッチェとしての解剖学的な特徴を併せ持つ中心窩およびその近傍にも網膜幹細胞様の未分化な細胞が存在するのではないかと考え, 研究を行なってきた。 我々は以前にサル眼の組織切片を用いた研究で, 神経幹細胞のマーカーであるNestinの染色が中心窩外層に多くみられること, real-time PCRで中心窩が他の網膜部位よりもNestinの発現が多いことを報告し, 特発性黄斑円孔の閉鎖との関連を考察した。今回, サル眼黄斑部網膜における, 分化ニューロンおよびグリア細胞のマーカーを用いた免疫染色を行い, 網膜の中心窩およびその近傍における神経分化機構について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成体カニクイザル(2歳~6歳)を安楽死させた後, 眼球を摘出し,中心窩陥凹を含む網膜の凍結組織切片を作成した。そのうえでGlial Fibrillary Acidic Protein(GFAP), Nestin, Neuron-specific class III β-tubulin(TUJ-1), Ki67, Cellular retinaldehyde-binding protein(CRALBP), NMYC downstrean-regulated gene 2(NDRG2), Arrestin 4を用いて免疫染色を行い, 蛍光顕微鏡および共焦点顕微鏡を用いて観察した。 組織切片の免疫染色の結果, 中心窩のMuller cell coneの内層に一致してGFAP陽性細胞が明瞭に観察された。また, このGFAP陽性部位は外網状層と外顆粒層の境界部の深層毛細血管網にも連続した染色性が見られた。中心窩網膜の最内層では一層のTUJ-1陽性細胞がみられ, それが周囲の神経節細胞層と連続していた。また, GFAP陽性部位はCRALBPと共染色されなかったが, 最内層部位はTUJ-1と共染色された。また, 染色性は弱いが視細胞層にもradial方向に走行するGFAP陽性細胞が見られた。Nestin陽性細胞は網膜外層を中心に発現が見られ, 一部GFAPと共染色された。Muller cell coneの外層にではNestinと錐体のマーカーであるArrestin 4が共染色されたが中心窩外は染色性が弱かった。中心窩錐体の軸索であるヘンレ層もNestin陽性であった。傍中心窩の神経節細胞層と内顆粒層にはKi67陽性細胞が散在性に認められた。
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今後の研究の推進方策 |
今までの結果から, Muller cell coneは単一の細胞の集合ではなく, 内層のGFAP陽性部位と外層のNestin陽性部位に分けられることがわかった。GFAP陽性部位は免疫染色結果および細胞の形態からastrocyteの可能性が高いと考えられる。視細胞層に伸びたGFAP陽性細胞は形態的にradial gliaの可能性が示唆される。Muller cell cone外層のNestin陽性部位は周囲の視細胞層とは異なり, NestinとArrestin 4の共染色部位が明瞭に観察されたことより, 中心窩の視細胞層には未分化な錐体細胞が存在する可能性が示唆される。中心窩ではこれらの未分化な細胞群が周囲の感覚網膜にニューロンを供給し, 中心窩の形態維持および再生に関与している可能性があり, さらに異なった神経幹細胞のマーカーで中心窩網膜の免疫組織を行う予定である。また, 中心窩だけではなく, 視神経乳頭周囲, 網膜最周辺部の組織切片を用いて同様の検討を行い, 比較検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
免疫染色に使用する抗体が予想より安価であったことと, 切片作成を一部業者に委託する予定だったが,当研究室で施行したことで, 実際の使用金額が予定より少なくなった。ただし,今後は新たな抗体を複数種類購入する予定であることから,多くの支出が予想される。
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