研究課題
新型のアデノウイルスによるウイルス性角結膜炎は,2015年頃から,国内での流行型の大半を占めるようになっており,その中でも54型による症例は通常治癒期とされている時点で出現する角膜上皮下混濁が高率に出現し,角膜上皮障害の遷延による視力低下が大きな臨床上の課題になっている。ステロイド点眼薬で一時的に改善しても,中止後の再発をくり返し,有効な治療法がないのが現状である。アデノウイルスの遺伝子は多岐にわたっているが,中和反応に関係するヘキソン,組織親和性に関与するファイバーなどがこれまで,既存の型を中心に研究されてきた。今回の研究ではこれまで知られてきたこれらの遺伝子に加えて,初期転写因子E1A, E2, E3などに含まれる部位,その中でもCR1aやbなどに着目し,新型を含めた多くの型や結膜炎を生じない型も含めて,詳細に遺伝子系統解析を行い,角膜病変重症化の遺伝子レベルでの原因部分の解明を行った。これによって,臨床的な変化が遺伝子レベルで明らかになり,治療薬への反応部位の特定が可能になり,臨床的にも有意義な研究であったと考えている。さらに角膜3Dモデル(LabCyte CORNEA-MODEL,オリエンタル酵母)を用いて,病原性の異なる複数のアデノウイルス型(流行性角結膜炎,咽頭結膜熱,気管支炎及び新型)を感染させ,その細胞傷害効果と病態を経時的に観察し,角膜上皮下混濁の発症が,上皮基底層でどのようにどの時点から始まっていくのか,型間の相違も含めて解析を行った。アデノウイルスを実際に感染させた場合の,細胞生存率とその病理学的解析を複数の型を用いて行った結果,新型アデノウイルスの中でも,85型が最も細胞生存率が低く,56型は生存率が高いことがわかった。以上からアデノウイルス感染性が上皮細胞に与える影響について,新しい知見が得られた。
2: おおむね順調に進展している
アデノウイルス結膜炎を生じる多種類のアデノウイルス型間の差異の検討を行うために,国立感染症研究所との協力によって,多くの臨床株を得ることができ,それによって,全ゲノム解析は順調に進捗している。さらにゲノム配列の中から,特に型間における,組織親和性の差異を生じる部位に関する検討を現在進めており,全体として現状でこの研究は順調に進捗しているといえる。
アデノウイルスによる結膜炎には確立された動物モデルはなく,白色家兎やラットモデルがこれまで報告されているが,これらは発症確率が低率か臨床症状を欠くものであり,人への直接の応用が容易ではない。結膜炎を確実に発症させるモデルの確立には,D種,B種のいずれにも適合したレセプターを豊富に発現している組織を有する動物の選択が必要である。そこで,本研究では呼吸器モデルにすでに使用されているマウス以外にラット,guinea pig,家兎の各種動物系の結膜組織を検体として,免疫組織化学的解析を行い,インテグリン,CAR(coxackie and adenovirus receptor)及びシアル酸など結膜炎起炎性型のレセプターが組織にどの程度局在しているかの比較解析を行う。
細胞実験に使用する器具の納入が、一部年度をこえたために、次年度使用額が生じたが、研究への影響は特に生じていない。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 図書 (3件)
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