研究課題/領域番号 |
18K09471
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター) |
研究代表者 |
武田 篤信 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター), 眼科, 医長 (40560313)
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研究分担者 |
園田 康平 九州大学, 医学研究院, 教授 (10294943)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 加齢黄斑変性 / 網膜下線維瘢痕化 / 網膜色素上皮細胞 / ニューロメジンU / ニューロメジンU受容体 |
研究実績の概要 |
1. 網膜下線維瘢痕化におけるサイトカインIL-6の役割をマウス網膜下線維瘢痕化モデル及び手術で摘出したヒト脈絡膜血管新生板の薄切標本を用いて解析した。ヒト標本を免疫染色するとIL-6は網膜色素上皮層と間質炎症細胞にみられた。マウス網膜下線維瘢痕化モデルにおいてIL-6受容体中和抗体、またはRNA干渉法でIL-6の発現を抑制すると網膜下線維瘢痕化は抑制された。IL-6欠損腹腔内マクロファージを用いた網膜下線維瘢痕化誘導能は野生型腹腔内マクロファージと比し有意に低下していた。これらの結果からマクロファージ由来IL-6が網膜下線維瘢痕化に重要な働きがあることがわかった(Sato K, Takeda A, et al., 2018)。 2. 眼内悪性リンパ腫診断における硝子体切除液セルブロックによる悪性細胞検出成績について解析し、セルブロック法でリンパ腫細胞を検出できない条件に付いて多変量解析を用いて後ろ向きに調べた。多変量解析に用いた交絡因子は年齢、性別、硝子体切除時の白内障手術併用、硝子体混濁の重症度(SUN分類でグレード3以上)、IL-10/IL-6比1未満、網脈絡膜病変、ステロイド全身投与の7因子である。セルブロック由来薄切標本では43眼中33眼(76.7%)で検出可能であり、31眼でB細胞マーカー、2眼でT細胞マーカー陽性の異型リンパ球がみられた。性・年齢調整において硝子体切除時の白内障手術併用、網脈絡膜病変によりセルブロックによる悪性細胞検出が有意に低下した(p = 0.02、p = 0.04)。多変量解析後も同様の結果となった。これらの結果から眼内悪性リンパ腫において、硝子体切除時の白内障手術併用または網脈絡膜病変がみられた症例では、硝子体切除液セルブロックからの悪性細胞検出が悪くなる可能性が示唆された(Ito T, Takeda A, et al., 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. ニューロメジンU遺伝子欠損マウス(NmU KO)と対照マウス(野生型マウス:WT)に網膜光凝固によりCNVをそれぞれ誘導した後、誘導後7日目のCNV(レクチンB4陽性)または、14日目の網膜下線維瘢痕化(コラーゲンtype 1陽性)の体積を比較した。NmU KOとWTにおいてCNV体積には有意差がみられなかった。それに対し網膜下線維瘢痕化はNmU KOで対照マウスと比し有意に増加していた。 2. 野生型マウスの腹腔からチオグリコレートで誘導した活性化マクロファージを調整した。調整した活性化マクロファージをWT由来の網膜色素上皮細胞(RPE)と共培養し、NmUまたは基剤の刺激により、RPEにおけるEMTマーカーであるα-SMAの発現変化について免疫染色法で調べた。NmUによりRPEにおけるα-SMAの発現は抑制された。 3. 次に、NmUのRPEでのEMTにおける作用がどの受容体介して生じているかを調べるためにRPEのRNA干渉法を用いてNmU受容体1(NmUR1)またはNmU受容体2(NmUR2)の発現を抑制し、NmUの刺激によるα-SMA発現の変化について免疫染色法で調べた。RPEにおけるNmUR2の発現を抑制するとNmUによる発現抑制効果は維持されたままでα-SMAの発現は抑制されていた。NmUR1の発現を抑制した場合にはNmUによる発現抑制効果は減弱し、α-SMAの発現がNmUR2発現抑制時と比し、増加していた。これらの結果から、NmUにはRPEのEMTを抑制する作用があり、その抑制作用はNmUR1を介している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
(1) NmUによる眼局所の炎症制御機構の解明(in vitro) 1. NmUによるRPEのEMTの抑制が、抑制性サイトカインIL-10などの液性因子を介した間接的なものかを調べる。NmU刺激後のRPEによる抑制性サイトカインIL-10やTGF-βの産生上昇をELISA法で調べる。2. RPEのNmUR1、NmUR2遺伝子をそれぞれRNA干渉法で欠損させた後に、1.の実験を行い, RPEのNmUR1、あるいはNmUR2のどちらの受容体を介してIL-10やTGF-βの産生上昇手術的にいるかをELISA法で調べる。 (2) 実験的脈絡膜新生血管(CNV)モデルを用いた解析(in vivo) 1. 野生型マウスにCNVを誘導し、眼局所におけるNmU、NmUR1、NmUR2の遺伝子発現の経時的変化を比較し、発現が高い時期をreal-time PCR法にて調べる。2. 野生型マウスの腹腔内にNmUまたは基剤投与した後、CNVを誘導し、ILC2(Lin陰性、IL-7Rα陽性、GATA3陽性)、マクロファージ(CD11b陽性細胞)などの炎症細胞浸潤の経時変化についてフローサイトメトリーを用いて調べる。3. 野生型マウスにCNVを誘導した後、眼内にNmUまたは基剤を投与し、ILC2、マクロファージなどの炎症細胞浸潤の経時変化についてフローサイトメトリーを用いて調べる。4. NmU KOと対照マウスにCNVを誘導した後、眼局所におけるα-SMA、vimentin、SnailなどのEMT関連因子をreal-time PCR法で比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験試薬の購入のため。
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