研究課題/領域番号 |
18K09478
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
杠 俊介 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (10270969)
|
研究分担者 |
高清水 一慶 信州大学, 医学部, 助教(特定雇用) (00793019)
永井 史緒 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 助教 (10794620)
柳澤 大輔 信州大学, 医学部附属病院, 助教(特定雇用) (40646527)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 赤唇 / 口唇粘膜 / メラニン / メラノサイト / 組織学 / 口唇裂 |
研究実績の概要 |
目的:赤唇は組織学的には皮膚であるが赤い。この赤みは口唇粘膜の赤みとは異なりくすんだ色となっている。この赤唇と口唇粘膜の色調の違いについて、色素細胞とメラニン色素に注目して組織学的に解析した。赤唇組織が不足する両側口唇裂正中の形成術において、可能な限り赤唇組織を温存して形と色を形成する新術式の有効性を確認した。 方法:口唇裂初回手術時に生じた余剰組織から組織切片標本を作製した。切片標本をヘマトキシリン・エオジン染色し、口唇部の白唇・赤唇・口唇粘膜が含まれていることを組織学的に観察し、その標本を用いて以下の解析を行った。色素細胞マーカーであるMelan-A抗体を用いて免疫染色し、またメラニン色素を染色するためにフォンタナ・マッソン染色を行った。染色した切片標本は組織切片定量解析システムVectra3(ParkinElmer社)を用いて解析し、得られた結果を統計解析ソフトSPSS(IBM)を用いてpaired t testを行った。非対称型両側口唇裂患者22名に新しい拡大赤唇弁を使用した術式を行い従来法と比較した。 結果とまとめ:赤唇と口唇粘膜における単位面積に占めるMelan-A陽性細胞の割合(n=7)は、それぞれ2.6±1.1%、0.9±0.3%と、赤唇の色素細胞が2.7倍も多く認められた(p=0.011)。また色素細胞から産生されるメラニン色素に関して(n=10)は、赤唇では0.9±0.6%、口唇粘膜では0.1±0.1%と、赤唇においてメラニン色素が7.8倍も多く認められた(p=0.002)。メラニン色素は黄色から茶褐色・黒色を呈するが、赤唇では色素細胞とそれらから産生されるメラニン色素量が口唇粘膜よりも多く存在するため、赤色にこの色素の色が混ざることで“くすんだ赤色”となり、色調差を生み出していると推測した。非対称型両側口唇裂患者の赤唇形態と色調は新術式の方が優れていた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤唇組織の色調を特徴づけている一因としてメラニンの量が関与していることを組織学的に解明することができた。口唇粘膜ではなく赤唇部は赤唇のみで形成する治療の難しい非対称性口唇裂の手術術式開発に研究成果がつながった。2018年度に計画していた赤唇の組織学的検証の一部から成果を得ることができ、学会発表および論文掲載につながった。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度には、赤唇と口唇粘膜との間の血管密度の差、白唇、赤唇と口唇粘膜に発現しているサイトケラチンの違いの種類や量の違いを検証する予定である。さらに、解剖実習検体より採取した身体各部の皮膚組織から、赤唇に最も近い組織がどこにあるかを検証し、赤唇を欠損した場合の理想的な再建方法を発案する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 当初の計画より安価に物品を購入し、2018年度に計画していた研究を遂行できたため。 (使用計画) 2018年度から繰り越された次年度使用額は2019年度請求額と合わせて、消耗品として使用する予定である。
|