本研究は、レプチンや内因性カンナビノイドにより甘味受容細胞で活性化される細胞内情報伝達経路を焙り出すとともに、その細胞特異性についても追及し、甘味感受性調節機構の分子・生理基盤を明らかとすることを目的とする。 前年度までの結果から、レプチンは甘味細胞においてPI3Kを活性化することで甘味抑制効果を発揮する可能性が考えられた。本年度は、まずsingle cell RT-PCRによりレプチンシグナリングに関わる遺伝子の発現を検索した。その結果、PI3KおよびSTAT3はほとんどのT1R3発現細胞で発現しており、SHP2も3割程度のT1R3発現細胞で発現が見られたが、STAT5はほとんど発現が見られなかった。また、PI3Kの下流因子として、Aktの活性化について検討した。舌上皮剥離標本において、レプチン刺激によりリン酸化Aktの発現増加が見られ、免疫組織化学的手法により、レプチン刺激は主にT1R3発現細胞でリン酸化Aktを増加させることが明らかとなった。更に、PI3Kの阻害剤であるLY294002によりレプチン刺激によるリン酸化Aktの増加は抑制された。これらの結果から、レプチンは甘味受容細胞に発現するレプチン受容体Ob-Rbを活性化し、PI3KおよびAktの活性化を引き起こし、KATPチャネルを開口することで、甘味受容細胞の甘味物質に対する応答性を抑制すると考えられる。次に、内因性カンナビノイド受容体CB1とレプチン受容体Ob-Rbの味蕾内での発現について検索を試みたが、両者の同時染色については良好な結果が得られず、味蕾内での共発現パターンについては明らかと出来なかった。また、レプチンと内因性カンナビノイドの甘味受容細胞に対する効果も検討したが、両者の効果を検討できる長時間記録が困難であり、データ数が少なく、まだその傾向については明らかにはなっていない。
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