サルコペニア(加齢性筋肉減弱現象)と肥満を合併した「サルコペニア肥満」は高齢者に特徴的な肥満の形態である。骨基質タンパク質であるオステオカルシン (GluOC)は、全身の糖・エネルギー代謝を改善するだけでなく、GluOCは筋肉量維持にも寄与することが報告された。つまり、GluOC はサルコペニアと肥満の両方にアプローチできる可能性がある。本研究の目的は、サルコペニア肥満の治療標的としての GluOC の可能性を探ることである。 骨格筋の、肥満による慢性的な酸化ストレスモデル細胞として、筋細胞に分化させたL6細胞を高グルコース、あるいは低濃度過酸化水素存在下で培養したものを用いた。これらのモデル細胞にGluOCを1時間作用させたのちにインスリン刺激を行ったところ、定常状態での糖取り込みがGluOCによって顕著に亢進していたものの、インスリン刺激時の糖取り込みに大きな違いはなかった。 骨格筋は脂肪細胞から動員された脂肪酸を取り込みエネルギー源とする。GluOCの脂肪分解への影響を検討するため、3T3-L1脂肪細胞におけるGPRC6Aをノックダウンすると、脂肪分解酵素であるATGLとその転写因子FoxO1の発現が上昇した。脂肪細胞特異的GPRC6A欠損マウスを作製し、解析を行なったところ、GPRC6Aを欠損した脂肪細胞では脂肪分解に関わる分子群の発現量が低下しており、脂肪分解抑制による脂肪細胞の肥大を引き起こした。脂肪分解酵素群の発現低下によって実際に脂肪の分解が抑制されていることを確認するため、イソプロテレノール刺激による脂肪分解を検討した結果、脂肪特異的GPRC6A欠損群でイソプロテレノール投与後の血中遊離脂肪酸が有意に低下していた。以上のことから、脂肪細胞におけるGPRC6Aシグナルが脂肪の分解を促し、骨格筋のエネルギー源となる遊離脂肪酸の放出に寄与することが明らかになった。
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