研究課題
糖尿病は代表的な糖代謝異常疾患であるが、近年、糖尿病の新たな合併症として骨粗鬆症が注目されている。インスリン依存性の1型糖尿病では骨芽細胞のインスリンシグナルが不足する事により骨形成が低下する事が知られている。一方、インスリン非依存性の2型糖尿病では『骨量は減少しないが、骨折リスクは上昇する』という特徴がある。その理由として、骨基質が終末糖化産物(AGEs)によって糖化変性し、劣化することで『硬くて脆い』骨になり脆弱性を示すと考えられているが、高骨密度が維持される機序については不明である。これまでに我々は、2型糖尿病で血中濃度が増加するAGEsの一つであるメチルグリオキサール(MG)を培養系に添加すると、骨芽細胞株MC3T3-E1細胞の石灰化が亢進し、形成した石灰化物の性状が対照と比べて硬さが増し、粘弾性が低下することを報告した。MGによるタンパク質の糖化変性は、カルボニル基の求電子反応によるものと考えられるため、その求電子反応を抑制する求核物質の一つとして、我々は活性イオウ分子種(RSS)に着目した。活性イオウ分子種はチオール基に過剰にイオウが結合したポリスルフィド構造を持つ物質で、様々な生体反応に関与することが近年明らかになっている。本年度は、この活性イオウ分子種がMGによる石灰化亢進作用に及ぼす影響について解析を行った。RSSとしてNaSH、Na2S2、Na2S3、Na2S4を用いた。MC3T3-E1を石灰化誘導培地で培養し、培地中にMGおよび各種RSSを添加して培養した。その結果、RSSの添加はMGによる石灰化亢進作用を抑制することが明らかとなった。また、その作用はSの原子数が多いほど大きかった。以上より、RSSはMGによる糖化ストレスを抑制する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
MGによる糖化ストレス抑制分子の候補の一つとしてRSSを同定した。具体的には、MC3T3-E1細胞を石灰化誘導培地で培養する実験系において、MGの添加で上昇するアルカリホスファターゼ 活性、石灰化物形成をRSSの添加が抑制することを発見した。さらにその作用はS原子を多く持つRSSほど強い抑制作用を示すことも明らかにした。
RSSの代謝はミトコンドリアで行われるが、その産生と分解に関わる酵素としてシステインtRNA合成酵素(Cars2)および硫化物キノンオキシドレダクターゼ(SQR)が報告されている。今後はこれらの酵素をsiRNAでノックダウンし、MGによる石灰化物形成促進作用およびナノインデンテーション法を用いた物性解析を行う予定である。
今年度は種々のRSSを用いて、MGによるMC3T3-E1細胞の石灰化物形成促進作用に及ぼす影響について解析した。本来はRSS添加時に形成された石灰化物の物性解析を予定していたが、研究を進める途中でRSS合成酵素であるCars2および分解酵素であるSQRの重要性が明らかとなり、Cars2およびSQRの遺伝子ノックダウンを行った上で石灰化物の物性解析を実施することにした。そのため、石灰化物の物性解析に関わる費用を次年度使用する。
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