研究課題/領域番号 |
18K09529
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
近藤 真啓 日本大学, 歯学部, 講師 (50312294)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ストレス / 神経回路 / 糖質摂食 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエを用いて、摂食行動(糖質摂食)の定量法およびストレス負荷実験モデルを確立し、遺伝学・行動学・形態学・分子生物学的手法を併用して慢性ストレスにより生じる摂食行動異常に関わる神経システムの解明を目的に本研究を開始し、初年度は以下の結果を得た。 1.二種類の摂食定量システムを構築した。1)BB-FCF添加スクロース水溶液を種々の濃度に調整して摂食させ、ハエの腹部の着色量に応じて4段階に分類し、Feeding Index(FI)を算出する。2)PBS/ethanol溶液内で個体をホモジナイズして吸光度(OD値)を計測する。これらの2つの手法を用いて得られた定量結果は正の相関を示した。 2.野生型ハエにおいて、絶食・絶水条件下ではスクロース濃度に応じてFIおよびOD値は上昇し、約10時間後にピークとなったが、絶食群では16時間経過後にFIが上昇し始めた。この結果から、正常状態では、糖質に対する摂食欲求は絶食16時間後付近で生じることが明らかになった。 3.同時点において、免疫組織化学的にニューロンの活動状態を解析した結果、食道下神経節およびその周辺領域でpERK陽性細胞が散在性に観察された。この結果は、「絶食に伴いERKのリン酸化が誘導されるニューロン群(の少なくとも一部)は、体内グルコース濃度の低下により活動性が上昇し、糖質摂食の制御に関与している可能性を示唆している。 4.各種の物理・化学的ストレス刺激を繰り返す、または特異な環境下にハエを置いた後、糖質摂食量の経時的変化について解析を行い、最適な実験的ストレス刺激について検討した。閉所ストレスや粉末塗布により、糖質の摂食量が徐々に減少することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
摂食量を定量するための2種類の手法(Feeding Index算出およびOD値測定)を確立し、両者が正の相関を示す(摂食の定量解析に利用可能である)ことを確認した。野生型ショウジョウバエの糖質摂食行動について解析を行い、正常な条件下では、糖質に対する摂食欲求は絶食16時間後付近に生じることを明らかにした。また、糖質摂食欲求時の脳内食道下神経節周囲でpERK陽性細胞が観察されることを見出した。種々のストレス刺激を与えた際に生じる糖質摂食量の変化について経時的に解析し、閉所環境下での飼育または粉末塗布刺激がストレス負荷実験に利用できる可能性を見出した。以上、初年度に実施を計画した実験について成果を得たことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に確立した糖質摂食量の定量法および実験的ストレス負荷法を用いて、ストレスおよび摂食行動を誘発する神経細胞群(神経システム)の検索を行う。各種刺激条件下において、ストレスに関連することが知られている分子(pERK、pp38、JNKなど)に対する特異的抗体を用いて、免疫組織化学を行い、脳内で活動する神経細胞群を明らかにする。そして、この情報をもとに特定の神経細胞でのみはたらくドライバーを利用し、当該神経細胞の活動状態を人為的に変化させた際に生じる摂食行動の変化を経時的に解析し、ストレスにより生じる質的・量的摂食異常の出現に関与するか否かを決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:3月に参加を予定していた生理学会への参加を取りやめたため、残金が生じた。 使用計画:2018年度(初年度)において、遺伝子改変動物の維持・管理に関わる経費(特に、飼育用プラステックバイアルおよびボトルの購入費)が当初の予定より多く必要になった。これを踏まえて、次年度への繰越金および平成31年度の助成金を合わせて、2019年度の学会参加に関わる費用に充てるのに加えて、その一部を、遺伝子改変動物の維持・管理に関わる経費(飼料・プラステックバイアル・ボトルの購入費)に充当する。
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