研究実績の概要 |
生体内で生じる死細胞は単に排除されるだけの廃棄物と考えられてきたが、近年、死細胞が種々の生体応答の起点となり得ることが示されつつある。しかし、口腔扁平上皮癌において細胞死をきたしたがん細胞がどのように機能するのかについては未知のままであった。我々はこれまでに、口腔扁平上皮癌組織においてがん細胞がアポトーシス死細胞を貪食する現象の生物学的意義を明らかにしていた。そこで本研究では、口腔扁平上皮癌において、ネクローシス細胞死をきたしたがん細胞が周囲の生活がん細胞へ及ぼす影響を解析するとともに、その分子機序を明らかにすることを目的に解析をおこなった。 まず、3種の口腔扁平上皮癌由来培養細胞 (Ca9-22, HSC-2, HSC-3)を用い、凍結融解によりネクローシスを誘導した同種死細胞を、生活がん細胞と共培養する実験系を確立した。死細胞存在下で生活がん細胞の機能変化を検索したところ、増殖能・遊走能・浸潤能のいずれもが亢進していた。次に、生活がん細胞活性化の分子機序を明らかにするために、DNAマイクロアレイによるトランスクリプトーム解析および抗体アレイによるサイトカイン解析をおこなった。その結果、生活がん細胞の活性化機序として、TLR2, TLR4による死細胞由来成分の認識と、IL-1β, TNF-α, IL-6等の炎症性サイトカイン産生が関与する可能性が示された。さらに、死細胞との共培養により、生活がん細胞内でのNF-κBのリン酸化と核内移行が認められ、NF-κBシグナリング経路が生活がん細胞活性化に関与することが示された。死細胞由来のダイイングコードとして数多くの候補分子が挙げられたものの、本研究ではダイイングコードの同定には至らなかった。 本研究遂行の結果、口腔扁平上皮癌における死細胞を起点とした腫瘍進展メカニズムの一端が明らかとなった。
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