研究課題
前年度の研究において第7染色体におけるhuman endogenous retroviral sequence (HERV) の過剰発現とhepatocyte growth factor (HGF)-c-met系の活性化が口腔扁平上皮癌の転移に関与することを報告した。本年度は同じ第7染色体のイントロンの長鎖ノンコーディング転写産物から生成されるmiR-29b-1のc-metおよび口腔扁平上皮癌の転移能との関連について検討した。49例の口腔扁平上皮癌症例における、miR-29b-1とc-metの発現とE-cadherin 発現、および、臨床病理学的パラメーターを検討し、その関連を解析した。miR-29b-1 発現は44例に、c-met発現は25例に認められ、両者には相関が認められた (P = 0.3738)。miR-29b-1発現は、E-cadherin 発現低下と相関しており (P = 0.0095)、c-met発現はE-cadherin 発現低下 (P = 0.0019)、および、遠隔転移 (P = 0.0496) と相関していた。さらに、前年度検討したHERVとmiR-29b-1のc-metの両因子の発現を検討すると、HERVとmiR-29b-1 、HERVとc-metの発現には相関が認められた (P = 0.0425, P = 0.0215)。miR-29b-1のc-metはともに上皮間葉移行を促進する因子として知られており、口腔扁平上皮癌においては両因子が相乗的に作用して上皮間葉移行を促進し、転移能を亢進している可能性が示唆された。さらに、miR-29b-1のc-metの発現亢進には、HERVが関与することが示唆された。これらの結果から、口腔扁平上皮癌において、HERVは悪性形質を抑制するための新たな分子標的として注目される。
2: おおむね順調に進展している
前年度はコロナ対策により十分な研究時間が取れなかったが、今年度は研究分担者との連携を密にして実験を行うことにより結果が得られてきている。
今年度得られた結果をもとにし、反復配列RNAの発現と口腔扁平上皮癌の生物学的性質を明らかにし、臨床応用につなげていきたい。
新型コロナの蔓延により学会参加を自粛したため、学会参加用の旅費と宿泊費として確保していた金額が次年度に繰り越したとなったが、その他はほぼ適正に使用できていると考える。
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Int J Mol Sci
巻: 21 ページ: E7149
10.3390/ijms21197149