研究課題/領域番号 |
18K09542
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
今井 一志 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (10328859)
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研究分担者 |
冨山 希美 (美原希美) 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (00803264)
千葉 忠成 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (60350138)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔癌 / MALT1 / ドメイン |
研究実績の概要 |
Deathドメイン、Ig様ドメインおよびカスパーゼ様ドメインから構成されるmucosa-associated lymphoid tissue lymphoma translocation 1 protein(MALT1)はリンパ球系細胞ではNF-κBシグナル伝達分子として機能し、口腔癌細胞では核に局在するとともにMAPKシグナルの抑制に働く。予後が不良な口腔癌組織では高頻度に発現が停止し、口腔癌細胞はMALT1の発現停止とともに高度悪性形質(増殖能、浸潤能、遊走能、等)を著しく増強する。このように、リンパ球系細胞と口腔癌細胞ではMALT1の局在と作用機転が大きく異なるが、その分子的な背景は全く不明である。本研究では、両細胞系列で最も顕著な違いといえる細胞内局在について着目し、口腔癌細胞におけるMALT1核局在の分子メカニズムに焦点を当てて解析を行っている。MALT1の各種ドメインを様々な組合せで欠失させた12種類の変異体を作製後、口腔癌細胞株に恒常的あるいは一過性に導入し、ウエスタンブロットおよび蛍光免疫染色で核局在に必要なドメインを解析した。その結果、カスパーゼ様ドメインをふくむ全てのコンストラクが核に局在し、それを含まないコンストラクトは細胞質に認められた。次に口腔癌細胞の増殖能に対する影響をリアルタイム増殖アッセイと通法のMTTアッセイで検討した。全長のMALT1が増殖を抑制したのに対し、すべての変異体は促進的に働いた。Deathドメインに核移行シグナル(NLS)をつないだクローンを作製したところ、同クローンは癌細胞増殖を著しく低下させた。 以上の結果から、口腔癌細胞のMALT1の核局在にはカスパーゼ様ドメインが責任ドメインとして働くが、癌細胞の増殖抑制にはカスパーゼ様ドメインによって核内に局在化したDeathドメインが必要であることが明らかになった。現在は、MALT1による癌細胞増殖抑制機構について引き続き検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MALT1はリンパ球系細胞(Jurkat、Raji)では細胞質画分に発現するのに対し、口腔癌細胞(HSC2、TSU、SCCKN、Ca9-22)では核画分に発現することを示し、両細胞系では細胞内局在が異なることを明確に示した。MALT1を構成するドメインを様々な組み合わせで欠失した6種類のコンストラクトを口腔癌細胞株に一過性あるいは恒常的に発現させ、共焦点レーザー顕微鏡を用いた免疫細胞化学と核画分・細胞質画分に対するウエスタンブロットを行なった。全長の野生型MALT1とカスパーゼ様ドメインを含むコンストラクは核に局在したのに対し、それ以外のコンストラクトは細胞質に認められた。次に細胞増殖能への影響をリアルタイム増殖アッセイで検討した。野生型MALT1は増殖を強く抑制したが、他のすべてのコンストラクトは促進的に働いた。野生型MALT1以外にDeathドメインを核に局在するコンストラクトが含まれていなかったため、Deathドメインに核移行シグナルを付加したDeath-NLSコンストラクト作製したところ、Death-NLSコンストラクトは細胞増殖を低下させた。 口腔癌細胞においてMALT1はカスパーゼ様ドメイン依存性に核に局在し、Deathドメインによって増殖が阻害されると考えられる。これらの結果を国際学術誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、リンパ球系細胞と口腔癌細胞ではMALT1の細胞内局在と機能が大きく異なり、口腔癌細胞では核へ局在し増殖抑制に働くドメイン依存性メカニズムの概要を明らかにした。しかし、どのようにしてカスパーゼ様ドメインが核への局在を誘導し、Deathドメインが核内で細胞増殖を抑制するかについては不明である。 化学修飾等との関連を探るとともに、各種の変異体を作製してメカニズムの詳細を追求していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な試薬類の効率的使用に大きく努めたことにより、物品費を節約できた。
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