研究課題
癌の進展を制御する重要な遺伝子は強力なエンハンサーの影響下に置かれると考えられている。そのようなエンハンサーはゲノムDNA上で近接してエンハンサー集団を形成することが近年明らかとなり、スーパーエンハンサーと呼ばれる。本研究では口腔扁平上皮癌細胞の増殖や転移に関与するスーパーエンハンサー領域を同定することを目指す。研究初年度は他研究グループが公表しているマイクロアレイとTCGA(The Cancer Genome Atlas)RNA-seqを解析し、口腔癌の予後に関与する遺伝子群を抽出した。本年度は、口腔癌細胞株を用いて遺伝子網羅解析を行った。口腔癌細胞株(親株)とその高転移能亜株を手に入れ、mRNAマイクロアレイ(SurePrint G3 Human Gene Expression 8x60k v3 Microarray)を行った。その結果、2個の細胞間で発現変動(|FC| > 1.5、P値 < 0.05)しているmRNAは1182個であり、そのうち親株と比較して高転移能亜株で発現が上昇しているmRNAは743個であった。Metascapeを用いた解析の結果、この743個のmRNAには上皮間葉転換や転移に関与するmRNAが有意にenrichされていた。さらにIngenuity Pathway Analysis(IPA)を行ったところ、転移を誘導する遺伝子ネットワークが予想された。このネットワークを構成する遺伝子の一部には、研究初年度で明らかになった、予後に影響を与える遺伝子も含まれていた。またIPAによるRegulator EffectsではNF-kBが上流活性化因子である可能性が見出された。
3: やや遅れている
年度途中で所属機関が変わり、研究環境の構築に時間を要した。
初年度と本年度の解析から、口腔癌の転移と予後に関わる遺伝子を絞り込みつつある。この解析と並行してスーパーエンハンサー領域の同定のためのChIP-seqを行う。また上記の親株と高転移能亜株の形質を解析するために、当初の予定通り動物実験を開始する。
ChIP-seqを行う予定であったが、研究所属機関の変更により本年度中に行うことが困難であった。親株と高転移能株を用いてBRD4、NF-kB、ヒストン(H3K27acなど)のクロマチン免疫沈降を行い、次世代シークエンサー解析で増殖や転移に関わるスーパーエンハンサー領域を同定する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (1件)
Journal of Toxicological Pathology
巻: 32 ページ: 91-99
10.1293/tox.2019-0007
Pathology International
巻: 69 ページ: -
10.1111/pin.12799
The Malaysian Journal of Pathology
巻: 41 ページ: 339-343