研究課題/領域番号 |
18K09552
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
長宗 秀明 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 教授 (40189163)
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研究分担者 |
田端 厚之 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 講師 (10432767)
友安 俊文 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 准教授 (20323404)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔連鎖球菌 / 溶血毒素 / 病原性 / 分子進化 / 細胞接着因子 |
研究実績の概要 |
口腔内のミチス群連鎖球菌群には,通常の4ドメイン型コレステロール依存性細胞溶解毒素(CDC)のN末端側に追加ドメイン(ExD)を持つ5ドメイン型CDC(5D-CDC)が分布している。さらにS. pseudopneumoniae(SPpn)には,リパーゼ様領域-2つのExD相同領域-CDC細胞結合ドメイン相同領域を持つハイブリッド型溶血毒素様蛋白質(LCDCLP)遺伝子も見いだされ,昨年度,このLCDCLPは膜孔形成毒素ではなく宿主細胞接着因子であることを明らかにした。今回,5D-CDCのExDはレクチン活性を持つ可能性が疑われたことから,LCDCLPのExDの推定活性残基をAla置換した結果,その変異体は細胞接着性を失うことが分かった。従ってLCDCLPはExDのレクチン機能で宿主細胞膜上の糖鎖受容体に結合する可能性が示唆された。またLCDCLP相同遺伝子がS. mitis(SM)株の約40%で見られたため,抗LCDCLP抗体を用いてその発現を調べた結果,株間差はあるがLCDCLPは発現していることが確認された。さらにLCDCLP遺伝子保有株はほぼ全てCDC遺伝子を保有することも分かり,LCDCLPとCDCが共同してSPpnやSMの病原性を変化させる可能性が考えられた。SMのLCDCLP保有株の中に形質転換可能な株が確認できたことから,現在LCDCLP遺伝子変異株の作成を進め,LCDCLP遺伝子の発現調節機構や病原性への帰与についても検討を進めている。またさらなる溶血毒素遺伝子の分布解析の結果,口腔連鎖球菌属近縁のGemella bergeri(GB)の敗血症性ショック患者分離株などのゲノムから,新規4ドメイン型CDC(Bergerilysin)遺伝子が見いだされた。この毒素組換え体や現在解析を並行している口腔連鎖球菌の溶血毒素の機能解析では,それらの強いヒト細胞障害性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度から解析を進めていたSPpn株由来のLCDCLPの分子特性がさらに詳細になってきたことから,LCDCLPの機能とSPpnの細胞定着性の関係を確認するためにSPpn基準株においてLCDCLP遺伝子欠損/変異株の作成を試みていたが,やはりSPpnでは効率的な形質転換が困難であった。一方,本年度終盤において,LCDCLPを発現・分泌するSM株において,感受性促進ペプチド(CSP)による形質転換が可能になり,この株を用いてLCDCLPの遺伝子欠損株/変異株の作成やLCDCLP遺伝子の発現調節機構の解析など,口腔連鎖球菌が示す病原性へのLCDCLPの帰与について解析を進めることが可能になった。それ以外にも,溶血毒素遺伝子の分布解析を継続する中で口腔連鎖球菌近縁種のGemella bergeriにおいて新規CDC(Bergerilysin:BLY)を見いだしてBLYの機能を確認することに成功し,またX線結晶構造解析のためのLCDCLP組換え体の調製や,ミチス群にのみ分布する5D-CDCのオリゴマー立体構造解析をクライオ電顕で解析するための組換え体の調製にも成功したことから,本年度計画ではやや遅れているものの,今後,多様な溶血毒素及び溶血毒素関連遺伝子産物の研究展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度にSPpn株で解析予定であった,溶血毒素様蛋白質LCDCLPの機能確認や遺伝子発現調節に関する解析を,SPpn株に代わって形質転換ができるようになったLCDCLP保有SM株を用いて進める。また,新規に見いだされたBLYがGemella bergeriの病原性に及ぼす影響やBLYの発現調節についても,ヒト敗血症性ショック臨床分離株を用いて解析する予定である。さらに,口腔連鎖球菌に分布する多様な溶血毒素及び溶血毒素関連蛋白質の内,LCDCLPや5D-CDCの完全な分子立体構造,また5D-CDCについてはそれが作る膜孔複合体についての立体構造が明らかになっていないことから,それらの解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な試薬類が予定より安価で購入できたため,次年度への繰り越しとなった。この額は次年度の物品費に合わせて研究のために有効に使用する予定である。
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