研究課題/領域番号 |
18K09553
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松尾 美樹 広島大学, 医系科学研究科(歯), 准教授 (20527048)
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研究分担者 |
大貝 悠一 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (40511259)
小松澤 均 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 教授 (90253088)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薬剤耐性 / 口腔 / 黄色ブドウ球菌 / バクテリオシン / ゲノムシーケンス |
研究実績の概要 |
多剤耐性黄色ブドウ球菌の口腔定着阻害を目的をしたプレバイオティクス因子の探索を行うことを目的としている。本年度は、昨年黄色ブドウ球菌に加えて分離していたう蝕細菌であるStreptococcus mutansと皮膚から分離した表皮ブドウ球菌 (Staphylococcus epidermidis) 各々100株について、黄色ブドウ球菌に対し抗菌活性を持つかをdirect法を用いて検証した。また、昨年分離した口腔由来・鼻腔由来黄色ブドウ球菌各々約100株のゲノムシーケンスを行い、薬剤耐性に関連する新規遺伝子の有無を検証した。さらに、昨年分離した黄色ブドウ球菌は、一個体から口腔と鼻腔、それぞれから分離していたため、薬剤耐性度が異なる黄色ブドウ球菌が分離された被験者については再度口腔・鼻腔から黄色ブドウ球菌を分離し、薬剤感受性試験を行い、再現性が取れた個体から分離した黄色ブドウ球菌については、口腔由来黄色ブドウ球菌と鼻腔由来黄色ブドウ球菌のゲノムシーケンスを行い、口腔と鼻腔の黄色ブドウ球菌間で遺伝子的な大概があるかどうかも検証した。 シーケンス解析については、現在研究分担者と解析を行なっている段階であるが、いくつか興味深い因子が認められていることから、現在はその因子の遺伝子不活性化株を用いての検証を行う予定である。 また、分離したS. mutansならびにS. epidermidisについては、黄色ブドウ球菌を阻害する株がいくつか認められている。それについても今後は詳細な検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度行った、POT解析と薬剤感受性試験から口腔と鼻腔から分離された黄色ブドウ球菌における遺伝子パターンと薬剤感受性との間の相関関係を見出すことができなかったため、本年度は口腔・鼻腔から分離した各々約100株の黄色ブドウ球菌からDNAを抽出しゲノム解析 を行った。ゲノム解析から口腔由来・鼻腔由来の黄色ブドウ球菌間でどのような違いが見出せるか、研究分担者らと協力し網羅的に比較することで、口腔由来の黄色ブドウ球菌に特徴的な遺伝子領域が存在する可能性を見いだした。一方、口腔に常在するS. mutansや皮膚に常在するS. epidermidisが抗菌性物質であるバクテリオシンを産生することは過去の報告から知られている。今回、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) であるMW2株に対し、抗菌力のあるバクテリオシンを産生する株の存在を検証する目的で分離した全ての菌株約400株を用いたdirect法を行った。その結果、S. mutansでは多くの菌株がMW2株に対し抗菌活性を認めた。そのため、現在はこのバクテリオシンの正常解析を行なっている。また、S. epidermidisについては200株のうち2株が抗菌力を認めた。S. epidermidisについてはバクテリオシンについての報告はあるが、数が非常に少ないことから分離するのは非常に難しいことが知られている。事実、我々も200株のうち抗菌活性を持つ株は4株、そのうちMRSAへの活性を認めた株は2株であった。この2株の性状は現在解析中であるが、現時点での結果は、一つは既報でありもう一つは新規のバクテリオシンである可能性が高いことが明らかになった。 これらの理由から、おおむね研究は順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は多剤耐性黄色ブドウ球菌の口腔定着阻害を目的をしたプレバイオティクス因子の探索を行う目的てことを目的としている。本年度は、口腔から分離したう蝕細菌であるS. mutansと皮膚から分離したS. epidermidis 各々200株について、MRSAに対し抗菌活性を持つ菌株を複数分離した。S. mutansについては、これまでに黄色ブドウ球菌への抗菌活性を持つバクテリオシンについての報告があることから、新規性は低い。今後の展開としては、まず抗菌活性を認めたバクテリオシンの同定を行い、さらに私たちがすでに分離している約200株の口腔ならびに鼻腔由来の黄色ブドウ球菌株に対し、MRSAに対し抗菌活性を認めたS. mutansの抗菌活性を検証することで、臨床分離株に対しどのバクテリオシンが有効であるかの詳細な検証を行う予定である。特に、口腔に常在する黄色ブドウ球菌が全身疾患に起因することが知られているため、口腔から分離された黄色ブドウ球菌に対し抗菌活性を持つバクテリオシンを見出すことを目的に検証を行う予定である。 また、分離した黄色ブドウ球菌は、メチシリン耐性を含め、薬剤感受性のパターンが多様である。その点も考慮しながら、どのバクテリオシンが最も有効であるかを検証していきたい。 S. mutansだけではなく、S. epidermidisにおいてもMRSAに抗菌活性を認める株を2株分離した。1株は既報ではあるが、文献も1報しかなく情報も少ないので、新規のバクテリオシンとともに臨床分離株に対する抗菌力の検証を詳細に行っていく予定である。 一個体から口腔と鼻腔、それぞれ薬剤感受性が異なる分離株が採取された分については、ゲノムシーケンスを行い、口腔と鼻腔の黄色ブドウ球菌間でゲノム検証を行った結果、興味深い遺伝子領域を見いだしたため、その検証を行う予定である。
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