シェーグレン症候群等でみられる自己免疫性唾液腺炎(AS)では、腺組織破壊による唾液分泌低下が認められる。ASの病巣では二次リンパ組織と類似した秩序のあるリンパ組織様構造「三次リンパ組織」が形成される。研究代表者はASの病態が出現するモデルマウスにおいて、自然免疫応答の誘導に関与するシグナル伝達分子MyD88を欠損させたところ、唾液腺組織での三次リンパ組織の形成が起こらないことを見出してきた。本研究課題の目的は,感染防御応答を担うはずのMyD88依存的シグナルが何故、どのようにASの三次リンパ組織形成に関与するのかそのメカニズムを分子生物学的に解明することである。ASモデルマウスとMyD88遺伝子を欠失させたASモデルマウスとを用い、設定した小課題について分子生物学的手法に基づいた種々の対照実験を行い、エビデンスを蓄積して総合的解釈により目的の達成を目指す。 2020年度はASモデルマウスとMyD88遺伝子欠損ASモデルマウスとの差異について、唾液腺組織における遺伝子発現を中心に三次リンパ組織形成機序の解明を目指し研究を行った。網羅的遺伝子発現データの解析から新たに分かったのは、多数のインターフェロン誘導性遺伝子の発現が唾液腺組織において観察され、MyD88の欠失により発現が減少するということである。これらの遺伝子群には、Ⅰ型インターフェロン特異的な遺伝子、Ⅱ型インターフェロン特異的な遺伝子、ならびに、両者に共通に発現する遺伝子が含まれていた。また、これらには全身性エリテマトーデスや関節リウマチにおいて発現が認められる遺伝子も多数含まれていた。これらの結果は、MyD88はシェーグレン症候群様の唾液腺炎発現の過程において特異的な免疫学的プロセス、特に、「インターフェロンシグネチャー」の発現に大きく関与しているということを示すものである。
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