炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease: IBD)は腸管に慢性の炎症をきたす自己免疫疾患であり、細菌が関与していることが示唆されている。私たちは、歯周病菌の菌種や菌量がIBDに与える影響について検討を行った。IBD 患者そしてコントロールとして健常人を対象とし、口腔内の唾液よりDNA を抽出し、PCR-インベーダー法にて菌を定量的測定した。健常人10名、クローン病患者10名、潰瘍性大腸炎患者20名で検討を行ったところ細菌量について有意差はないもののクローン病、潰瘍性大腸炎、健常人の順に多い傾向にあった。一方、歯周病関連菌であるFusobacterium nucleatumは潰瘍性大腸炎に多く見られる傾向であった。口腔内細菌量および歯周病関連菌と疾患活動性や内視鏡所見との関連性は見出せなかった。基礎研究においてはFusobacterium nucleatumの大量培養を行い、マウスに対し1億個のFusobacterium nucleatumの経口投与を行った。Fusobacterium nucleatum投与後の腸間膜リンパ節および腸管への影響について検討を行ったところ、IL-1βやIL-6の炎症性サイトカインの増加を認めたが有意差は認められなかった。一方、IFN-γやIL-4,IL-17などのT細胞系のサイトカインに違いは認められなかった。デキストラン硫酸(DSS)による腸炎モデルマウスに対し、同様にFusobacterium nucleatumの経口投与を行い、腸炎に対する影響を検討したところ、腸炎には影響を認めなかった。炎症性サイトカインやT細胞系サイトカインにも非投与群と比較し、やや増悪傾向はあるものの有意差は認められず、腸炎に対する直接的な影響を確認することはできなかった。
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