研究課題/領域番号 |
18K09573
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柏木 陽一郎 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (20598396)
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研究分担者 |
石濱 泰 京都大学, 薬学研究科, 教授 (30439244)
岩山 智明 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (80757865)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歯周病 / 糖尿病 / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
本研究は、歯周病菌が消化管に到達することで腸内細菌叢ならびに腸管上皮にどの様な影響を及ぼし、経門脈的にいかなる分子が肝臓等に到達することにより糖・脂質代謝異常を引き起こし得るのかについて、オミクス解析により分子レベルにて解明することを目的としている。 糖尿病マウスに対して経口で歯周病菌を感染させた群において、μCT解析にて歯槽骨吸収量の有意な増加と、時間経過とともに血糖値の有意な上昇を確認している。同感染マウスの肝臓組織のPCR解析の結果、炎症関連遺伝子には変化はみられないものの、脂質合成関連遺伝子の減少と糖新生関連および胆汁酸合成関連の遺伝子の発現上昇を確認しており、肝臓における糖・脂質代謝に影響を及ぼしている変化を捉えた。さらにプロテオーム解析により腸管内の菌叢の変化および糞便内において歯周病菌であるPorphyromonas gingivalis菌(P.g菌)の存在を菌固有のペプチドで確認することに成功した。また、内容物を含めたメタボローム解析を行った結果、菌投与群において一部の有機化合物の上昇及び減少を確認した。これらの結果から、歯周病による糖尿病の病態修飾は炎症による結果ではなく、細菌叢の変化による糖・脂質代謝ネットワークに対する修飾因子の可能性を考察している。引き続き本研究計画によって小腸-門脈血-肝臓等を対象にオミクス解析することにより、これらをつなぐ特異的な分子を同定し、歯周病が代謝異常病態を増悪する分子メカニズムの一端を解明したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝臓における糖代謝関連分子の中で、糖新生関連分子に着目し、遺伝子発現とタンパク発現について検討を行った結果、有意に発現が亢進していることを確認している。さらに、歯肉組織の細胞を対象として、同一試料に対してプロテオーム解析とメタボローム解析を開始した。今後、その安定した計測結果が得られれば、データマネージメントおよびその解釈を共同研究者と進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究分担者である石濱の研究室は高速液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)に用いるユニークなLCカラムを有しており、世界で初めてバクテリア(大腸菌)の完全プロテオーム解析を達成し、リン酸化プロテーム解析にも実績を有する。そこで糞便、腸管、肝臓等の試料に対して、タンパクを酵素消化してペプチド断片にし、質量分析計にて測定するショットガンプロテオーム解析を行うとともに、外部機関での受託解析にて並行して門脈血、肝臓等のメタボローム解析を行う。これにより、腸内細菌叢の変化による特異的代謝産物の痕跡を包括的に探索する。また、糖・脂質代謝ネットワークに対する肝臓におけるリン酸化プロテオーム解析を行い、ネットワークの異常を俯瞰的に検討する。さらに抽出された候補分子について、過剰投与等を行い上記の現象の再現による解析により、特異的病態修飾因子の候補分子の抽出を目指す。上記予備実験データに対して、経口糖負荷試験およびインスリン負荷試験や血中および肝臓組織中における中性脂肪を酵素化学的測定にて濃度測定し、病態の機能的解析を行う。有意に変化のみられた遺伝子群に対するタンパク発現変化およびリン酸化についてWestern blot法にて検討すると共に、小腸、肝臓における組織切片を作製し、免疫組織学的に観察し検討する。肝臓における糖脂質代謝に対する作用機序として、フォークヘッド型転写因子(FoxO)や胆汁酸産生に伴う腸肝循環に対する影響に着目し検討する
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染の影響で2020年3月に予定していた国際学会への出席が不可能になり、実験の一部を停止しなければならなくなった。それに対し、本年度同様の学術大会が開かれれば、積極的に参加し、成果発表することを計画している。
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