本研究は、歯周病菌が消化管に到達することで腸内細菌叢ならびに腸管上皮にどの様な影響を及ぼし、経門脈的にいかなる分子が肝臓等に到達することにより糖・脂質代謝異常を引き起こし得るのかについて、オミクス解析により分子レベルにて解明することを目的とした。 糖尿病マウスに対して経口で歯周病菌を感染させた群において、μCT解析にて歯槽骨吸収量の有意な増加と、時間経過とともに血糖値の有意な上昇を確認している。同感染マウスの肝臓組織のPCR解析の結果、炎症関連遺伝子には変化はみられないものの、脂質合成関連遺伝子(Fasn)の減少と糖新生関連(Pck1/Foxo1)および胆汁酸合成関連(Cyp7a1)の遺伝子の発現上昇を確認しており、肝臓における糖・脂質代謝に影響を及ぼしている変化を捉えた。さらにプロテオーム解析により腸管内の菌叢の変化および糞便内において歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisの存在を菌固有のペプチドで確認することに成功した。同上マウス肝臓に対して、プロテオーム・メタボローム両解析を行った。その結果、Pg投与群の肝臓におけるグリコーゲン量の減少と糖代謝の中間代謝物(ピルビン酸、ホスホエノールピルビン酸、3-ホスホグリセリン酸)の有意な増加および糖新生関連タンパク質(ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1、トリオースリン酸イソメラーゼ、アルドラーゼAの上昇とホスホグルコムターゼ-2、乳酸脱水素酵素A、ジヒドロリポイルリシン残基アセチルトランスフェラーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼベータ、グルコース6リン酸イソメラーゼの減少)に変動が認められ、Pgの口腔からの嚥下により経腸管に肝臓内において糖新生の亢進を惹起していると考察している。
|