本課題の目的は,歯周基本治療前後で硫化水素(呼気および唾液)および唾液中の生物学的マーカー(炎症,酸化ストレス,細胞傷害)を測定し歯周組織検査値との関連を明らかにすることで歯周炎の病態形成に与える硫化水素の影響を解明することであった。慢性歯周炎患者を対象として歯周組織検査後に呼気と唾液を採取し,呼気は直ちに簡易ガスクロマトグラフィーで測定し,安静時唾液は後日,蛍光プローブHSip-1を利用してマイクロプレートリーダーで測定する計画であった。 研究期間は当初,平成30年度(2018年度)から3年間で, 2019年末に購入予定の測定機器が全て揃ったことから患者からの呼気と唾液の採取を開始する予定であった。2020年にCOVID-19感染症が発生し2021年度と2022年度の2年間,研究期間の延長を申請したが,重症感染者数のピークは現在の8波まで続いており収束の兆しは認められない。唾液中には高濃度のCOVID-19ウイルスが存在すること,ワクチン優先接種を受けた歯科医師にも感染例が多く認められたことから,感染防止の観点から患者および医局員からのサンプル採取は断念した。よって,申請者自身から一定時間おきに呼気および唾液を採取し硫化水素濃度を測定することにした。9時から17時まで1時間毎に呼気と唾液を採取した。5日間,同様のサンプル採取を行った結果,メチルメルカプタンとジメチルサルファイドはいずれも午前中に最高で30 ppbまで増加し,昼食後に検出されなくなるが17時頃には20 ppbまで徐々に増加する傾向であった。硫化水素については昼食後に低下する傾向は認められたが,採取日によってピークが50-150 ppbと変動していた。唾液サンプル中の硫化水素濃度に関しては,いずれも標準曲線の信頼域より低い蛍光強度を示すことから測定不能であった。今後はより低濃度の硫化水素を検出する試みを行う。
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